外科学講座西塚哲講師らの研究グループが世界で初めて、多能性幹細胞Muse細胞が肝切除後の組織修復および 再生に独占的に関与していることを解明しました
【研究の概要】
岩手医科大学の片桐弘勝(かたぎり ひろかつ)助教、西塚哲(にしづか さとし)講師の研究グループは、東北大学、出澤真理教授、防衛医大、津田均教授との共同研究で、肝切除後の組織修復および組織再生に、骨髄由来間葉系幹細胞の中で多能性幹細胞Muse細胞が独占的に関与していることを発見しました。
今までは、骨髄由来の細胞は血中を循環していることはわかっていましたが、その中のどの細胞が肝臓の組織修復に関与しているかはわかっていませんでした。片桐助教らはヒトの外科手術と同じ方法で肝切除を行ったマウスに、ヒトMuse細胞を移植し、Muse細胞が肝臓を構成する主だった全ての細胞に分化し、肝臓を再生したことを確認しました。一方、Muse細胞以外の骨髄由来間葉系幹細胞は肝臓に到達していませんでした。
ヒトの生体肝移植は、ドナーから切除された肝臓をレシピエントに移植しますが、再生した肝臓の中にレシピエント由来の細胞が一定数含まれていることがわかっており、肝臓以外から肝臓の細胞が供給されている可能性が考えられてきました。
今回、Muse細胞のような組織修復に特化した多能性幹細胞の移植が肝臓の組織修復と再生を促すことが分かったことで、肝臓の手術の後に修復を早める目的でMuse細胞を移植する方法が注目される可能性があります。また、Muse細胞は体内に自然に存在するので、その使用に関して遺伝子導入は不要で、腫瘍形成のリスクもほとんどないと言われています。
本研究成果は、平成27年12月11日に「American Journal of Transplantation(アメリカンジャーナルオブトランスプランテーション、米国移植学会・米国移植外科学会誌)」に掲載されました。
【研究成果のポイント】
・ヒト骨髄由来の多能性幹細胞Muse細胞が肝切除後の組織で肝臓を構成する種々の細胞に分化していることを明らかにしました。
・ヒト骨髄由来細胞のうち、Muse細胞以外の細胞は切除された肝臓に到達していませんでした。
・肝臓の外にある細胞が肝臓になりうることを細胞レベルで証明しました。
・Muse細胞は体内に自然に存在するため、その使用に対する倫理的問題は殆どありません。
・遺伝子導入は不要で、腫瘍形成のリスクもほとんどないため、早期の臨床応用が期待できます。
【掲載情報】
岩手日報(12月15日 4面)、盛岡タイムス(12月15日 1面)、河北新報(12月15日 3面)および岩手日日新聞(12月15日 2面)に掲載されました。
(研究内容の問い合わせ先)
外科学講座
講師 西塚 哲
電話:019-651-5111(内線8290)