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令和5年度入学式 学長式辞

 岩手医科大学医学部・歯学部・薬学部・看護学部の新入生諸君と医学部・歯学部に編入学される、合わせて296名の諸君、大学院の修士課程・博士課程に入学の34名の諸君、誠におめでとうございます。

また、諸君のご父兄、ご親族の皆様方は本日を指折り数えてお待ちいただいたと思います。たいへんお喜びのことと推察いたします。誠におめでとうございます。ご父兄、ご親族の皆様方はすでにご案内のことと思いますが、まだ新型コロナウィルス感染症の第8波が収束しておりません。そのため安全を期してウェブでご視聴いただくこととなりました。

まず、入学生諸君全員に申し上げます。本日はあいにくの悪天候ですが、盛岡も矢巾も桜が満開です。諸君の入学を祝福していると思います。これまで10数年、こんなに桜が満開のときに入学式を挙行したことはありません。本当におめでたいことと思います。

医・歯・薬・看4学部に入学の諸君と編入学の諸君に申し上げます。諸君が入学した岩手医科大学は、4月20日に創立126年を迎える、長い歴史を歩んできた大学です。126年前は明治30年です。本学をつくられた三田俊次郎先生は、岩手・秋田・青森の北東北3県の医療の貧困を憂いて、私財を投じて私立岩手病院と医学講習所をつくられました。三田先生が素晴らしいのは、医師のみで医療は成立しないと考え、同時に産婆・看護婦学校、現在の助産師・看護師の学校をつくられたことです。

諸君はお分かりと思いますが、現在の医療は患者さんとそのご家族を中心にして、医師・看護師・歯科医師・薬剤師、あるいはリハビリテーション師や検査技師、さらに事務職員を含めて、いろいろな人がチームとなって医療にあたります。つまり、これがチーム医療です。現在の医療の常識になっていますが、今から126年前の日本でチーム医療という言葉もない時代に、三田先生は少なくとも東北・北海道で、チーム医療の先鞭をつけられたのです。

その後、本学は様々な経緯を経て、しばらくは医科の単科大学として歩んできましたが、昭和40年に東北・北海道で初となる歯学部を設置しました。そして平成19年に薬学部、平成29年には創立120周年記念事業の一環として我々の悲願であった看護学部を設置しました。これにより医・歯・薬・看の4学部からなる医療系総合大学として再スタートし、今日に至っています。

矢巾キャンパスには、医・歯・薬・看4学部それぞれ専用の講義室や講義棟というものはありません。同様に、各学部に分かれた研究棟もありません。それは4学部が必要に応じて連携して教育、研究を行うということ、もちろん診療においても連携診療を行うのが本学のモットーで、それを実行しているからです。また、矢巾には11階建ての大病院があります。1000床を有しており、ほぼ満床で日々、回転している状態です。この病院は最新鋭の医療機器と優秀なスタッフを揃えた、まさに屈指の大病院であり、現在、北東北から東北における中核医療拠点として機能しています。

このように本学の大きな特長として、スタート時点からの地域医療とチーム医療、矢巾の新病院、そしてその後ろに新たにつくられた感染症対策センターがあります。感染症対策センターは、現在はコロナ対応をしていますが、将来的には新興感染症に対応するセンターとして機能することになります。そして内丸では従来、本院として機能してきた内丸メディカルセンター50床が機能しています。これらの施設は北東北、東北における医療拠点として、ますます発展していきます。諸君は数年以内に、その中で臨床実習を行うことになります。ぜひ期待していただきたいと思います。

先ほどお話しした三田先生は「医療人たる前に誠の人間たれ」という言葉を残されました。この言葉は本学の学是となっていますが、非常に難しい言葉です。これを裏返すと「誠の人間として医療を行え」ということになろうかと思いますが、この「誠の人間」とは一体何ぞやということです。

実は、江戸時代後半から明治時代にかけて誠の人間という言葉が知識人の間でトレンディな言葉になり、いろいろな人がそれは何かということについて書いています。それらを読むと、それぞれに解釈が違います。それほど難しい言葉です。人間が成長していく段階で、いろいろなことを学び、いろいろなことを考え、その成長段階に応じて、1人の人間においても誠の人間像は違うはずです。ですから、その人間が、ある時点で持っている誠の人間像を全人格で医療にぶつけることが「医療人たる前に誠の人間たれ」ではないか。私は、そう解釈しています。

学生諸君によく話すのですが、諸君が医療人になったとき、患者さんとそのご家族は、患者さんが病を得て、その病ゆえに心も痛めて医療人を訪ねてこられます。そのとき諸君には、医療人として患者さんとそのご家族の病み、痛みを理解して寄り添う、心優しい医療人になっていただきたい。それが「医療人たる前に誠の人間たれ」ということにつながるだろうと考えています。

私は5月、新入生諸君のオリエンテーションで講義をします。いろいろな話をしますが、その中で「人間の頭はやわらかい」ということを話します。諸君もご存知のように、脳は豆腐のようにやわらかく、それゆえに病気になりやすい。逆に、「やわらか頭」を持って努力し頑張れば、いろいろな能力を発揮できる素晴らしい部位でもあります。諸君は学生時代から患者さんに接することになりますが、やわらか頭で常に自分を叱咤激励して、優しい心の持ち主になるよう訓練していっていただきたいと思います。

大学院に入学した諸君に申し上げます。諸君は医学・医療の真理を追求し、かつ、その分野における指導者になることを目指して入学されました。諸君の真摯な姿勢と決意に敬意を表します。スタート直後は、いろいろ分からないことがあると思いますが、続けている間に道は拓けてくるでしょう。また、諸君の指導者、先輩に指導していただけると思いますので、大いに頑張って難関を突き抜け、将来の夢をつかんでいただきたいと思います。

本日出席の全員に申し上げます。諸君は、どのような医療人になろうかというイメージや夢を持ちながら本学に入学されたことと思います。今後、そのイメージが具体化していき、卒業して立派な医療人になるでしょう。大学院に入学された諸君は、立派な研究者になるだろうと思います。諸君には常に、自分の次のステップ、その次のステップというように新たな夢をつくり、夢をつないでいってください。本日の入学式にあたり諸君を激励し、式辞といたします。

(令和5年4月12日 トーサイクラシックホール岩手(岩手県民会館))

岩手医科大学 学長 祖父江 憲治