糖尿病の治療につながるインスリン分泌小胞の輸送メカニズムを解明
岩手医科大学薬学部の關谷瑞樹准教授、中西(松井)真弓教授、高橋巌特任講師、那谷耕司名誉教授、岩手医科大学生命科学研究技術支援センターの花坂智人技師長、石山(松浦)絵里技術員、国際医療福祉大学医学部の松元奈緒美助教、明治薬科大学の荒木信講師、熊本大学医学部の若山友彦教授からなる研究グループは、マウス膵臓β細胞由来の培養細胞において、グルコース濃度を高くすると、インスリン分泌小胞が細胞膜側(外向き)へ輸送され、グルコース濃度を元に戻すと、インスリンを分泌しなかった小胞が細胞内側(内向き)へ輸送されることを発見しました。
さらに、このインスリン分泌小胞の双方向の輸送に液胞型ATPase(V-ATPase)というタンパク質が重要な役割を持つことを見出しました。V-ATPaseは、膜を介してプロトン(水素イオン)を運ぶことにより酸性環境を形成するプロトンポンプです。サブユニットと呼ばれる多くの部品からできており、プロトンの輸送路を形成するaサブユニットには少しずつ構造が異なるa1~a4の4種類が存在します。当研究グループは、β細胞においてV-ATPaseのa3サブユニットは、インスリン分泌小胞の外向きの輸送に関与することを示しました。一方a2サブユニットは、インスリン分泌小胞の内向きの輸送に関与していました。また、a2、a3が、インスリン分泌小胞の輸送に必須なRab27Aと呼ばれるタンパク質に結合することも見出しました。以上の結果から、V-ATPaseはインスリン分泌小胞の輸送因子と結合することで外向き・内向きの輸送に関与し、インスリン分泌の調節に寄与していると考えられます。実際にβ細胞でa2サブユニットの量を人為的に低下させることで、インスリン分泌量を増加させることにも成功しました。
本研究は、プロトンの輸送を行うV-ATPaseが、インスリン分泌小胞の外向き・内向き輸送という一見関連性のない生命現象に関与するという大変興味深い発見です。また本研究で明らかにしたインスリン分泌小胞の輸送メカニズムを標的とした医薬品は開発されておらず、2型糖尿病の新たな治療法の開発につながると期待されます。