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令和3年度卒業式 学長式辞

岩手医科大学医学部・歯学部・薬学部・看護学部卒業の322名の諸君、そして大学院博士課程・修士課程を修了し学位を授与された22名の諸君、誠におめでとうございます。諸君のご父兄、ご親族の皆様は、一日千秋の思いで本日を迎えられたことと思います。誠におめでとうございます。

本学の卒業式は本来、約2000人収容の岩手県民会館大ホールで、諸君全員とご父兄、ご親族の皆様、諸君の後輩にご参加いただいて大セレモニーを行うことを恒例としていました。ところが一昨年の1 月から、新型コロナウイルス感染症が大流行しました。日本だけでなく世界中の大流行です。これにより一昨年は、本学としては初めて卒業式を中止せざるを得ないという苦い体験を経ました。

一昨年のようなことがあってはならないと、昨年・今年ともに十分な準備をしてまいりましたが、昨年は第3波、今年は第6波の大襲来で、県民会館で従来通りの卒業式を行うことはできないと判断し、本日のように代表の皆様方にご出席いただき、大多数の卒業生、学位授与の諸君、ご父兄、ご親族の皆様にはウェブでご視聴いただく形をとらせていただきました。

まず、卒業生諸君に申し上げます。本学は明治30年、三田俊次郎先生が当時の北東北の医療の貧困を憂いて、私財を投げうって医学校と私立病院をつくられ、それが本学の創立となりました。三田先生は大変な慧眼の持ち主でした。医師のみで医療は成立しないと考え、同時に産婆・看護婦学校もつくられました。その当時から我が大学は、まさに東北・北海道のチーム医療の先鞭を切ったことになります。

しかし、時代の経過とともに様々なことがあり、しばらくの間は医学部のみの単科大学として運営してきました。そして昭和40年、東北・北海道で初となる歯学部を設立しました。平成19年に薬学部、平成29年には創立120周年の記念事業の一環として看護学部を設立し、本学の悲願であった医・歯・薬・看4学部から成る医療系総合大学として再スタートすることになりました。

諸君は入学以来よく聞いたと思いますが、三田先生が言われた「医療人たる前に誠の人間たれ」という言葉があります。本学の学是となっていますが、この「誠の人間」というのは非常に難しい言葉です。私は、諸君より50数年前に本学を卒業しました。それ以来ずっと、この「誠の人間」ということを自分なりに問うてきましたが、未だに答えは出ていません。

いろいろな書物を紐解きますと、例えば幕末の頃に勤王・佐幕という大きな争いがありました。そのときに長州藩の家老をしていた真木和泉という人がいました。いわゆる朝廷派の志士で、京都の御所を守っていました。「禁門の変」、別名「蛤御門の変」を起こしたのはこの人です。それから諸君もよくご存知と思いますが、新渡戸稲造先生は「われ太平洋の架け橋とならん」と活躍されました。江戸時代から明治にかけて、そうした人々をはじめ多くの人がそれぞれの思いを込めて「誠の人間とは何たるか」を書かれています。

諸君が入学したとき、私はそれをどう説明したらいいかと悩み、結局は一言で申し上げることはできないと思いました。そこで「諸君が医療人となったとき、諸君の前に訪れる患者さんとそのご家族は、体を病み、それゆえに心を痛めてこられる方である。ですから、患者さんとそのご家族の病みと痛みを理解し、患者さんに寄り添う心優しい医療人になってください」という話をしたことを覚えています。

諸君はすでに体感しておられると思いますが、医学・医療は猛烈に進化・進歩しています。諸君がいかに患者さんに対し思いやりを持った優しい医療人であっても、医学・医療の進歩のスピードについていけなければ良い医療を行うことはできません。ですから諸君は、この進歩に必死でついていき、良い医療を行っていただきたいと思います。これこそが医療人における生涯学習・生涯教育というものです。まずは医学・医療の進歩についていき、いずれはその進歩を牽引する人になっていただきたいと期待しています。

学位を取得した諸君に申し上げます。諸君は、まさに医学・医療の真理を追究すべく頑張ってこられました。そして、その成果を挙げ、今日の栄誉を得られました。その過程の中で、諸君は大変な苦労されたことと思います。研究テーマを選ぶこと、方法論を学ぶこと、実際に研究を行うこと、そしてその研究成果を論文として発表し、それが認められて初めて今日に至ったわけです。この過程で諸君はいろいろな経験をしたと思いますが、このプロセスの中で、こうしたら上手くいくのではないかという、いわゆる「仕留めた」という感覚を持たれたことと思います。ぜひ、その感覚を大事にしていただきたい。そして諸君がここに至るまでには、諸君を指導してくださった教授をはじめ、教員、先輩などの支えがあって初めて今日があることを忘れないでいただきたいですし、諸君を陰から支えていただいたご両親、ご家族のサポートがあったことも、感謝の気持ちを持って忘れないでいただきたいと思います。諸君はこれから医学・医療における指導者になるわけですから、諸君の後輩に対して、その思いを十分に伝えていただきたい。そして、良き指導者になっていただくことをお願いしたいと思います。

最後に、諸君全員にお話し申し上げます。本日は3月11日です。ご存知の通り、11年前に東日本大震災が発災した日です。このとき東北地方は、大被害を被り大変なことになりました。本学はこれまで地域医療・先進医療に努めてまいりましたが、新たに被災地の災害医療支援という仕事が加わり、教職員一同、いや、学生諸君も本当に頑張っていただきました。復興は、まだ道半ばです。これからも続けていかなければならないことはたくさんあると思いますが、今後とも本学教職員、学生諸君が力を合わせて頑張ってまいりたいと思います。

諸君は学生時代に、矢巾の新病院の建設と完成を見てきたことと思います。本学にとっては地域医療・先進医療ということに加えてもう一つ、内丸キャンパスから矢巾キャンパスへの大移転という大きなミッションがありました。ご存知のように、内丸キャンパスは非常に狭隘であることから、この場所でこれ以上の発展は望めないということで矢巾キャンパスに新天地を求めました。そして2年7カ月前に新病院が完成し、現在では北東北における医療中核拠点として機能しています。内丸メディカルセンターも近い将来、新改築をしていきたいと考えています。このように諸君の母校は日々、進化しています。

諸君はそれぞれの希望を持って各学部、あるいは大学院に入学し、それを達成してここにおられます。つまり自分の心の中にある花を咲かされたわけです。今後その花をつないで、より大輪の花として咲かせていただきたいと願っています。諸君は医療人として、世に問う存在となり頑張っていただきたいと願っています。諸君の今後の活躍に期待してエールを送り、式辞といたします。誠におめでとうございました。

(令和4年3月11日大堀記念講堂)

岩手医科大学 学長 祖父江 憲治