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令和2年度卒業式式辞

岩手医科大学医学部・歯学部・薬学部・看護学部の卒業生368名の諸君、そして大学院博士課程・修士課程の学位を得られた16名の諸君、誠におめでとうございます。この日をお待ちいただいたご両親、ご親族の皆様のお喜びはいかばかりかと推察いたします。誠におめでとうございます。

昨日、東日本大震災から10年の節目を迎えました。まだ、復興は道半ばです。そして、それぞれの心に負った傷は癒えるものではありません。この中にあって昨年、日本のみならず世界中を震撼させる新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こりました。昨年3月、本来であれば挙行する予定であった本学の卒業式を急遽、中止せざるを得ないという状況に陥りました。今年は、何が何でも卒業式を行うのだという強い決意で準備を進めてまいりましたが、やはりパンデミックの第3波が襲い、このように縮小した卒業式を行うこととして代表の諸君に参加いただき、多くの卒業生、博士・修士の学位を授与された諸君、ご両親やご親族の皆様にはウェブでご参加いただく形をとらざるを得ない状況となりました。

まず、卒業生諸君に申し上げます。今回の卒業式は、本学にとって特別な意味合いを持っています。それは、看護学部の第1期卒業生を輩出したことです。先ほど看護学部の阿部さんに卒業証書をお渡ししましたが、その学位記には記念すべき第1号と書いてあります。本学は明治30年、学祖である三田俊次郎先生が医学講習所をつくられて医師を養成するとき、医師のみでは医療は成立しないとお考えになり、産婆・看護婦養成所もつくられました。現在の助産師・看護師の学校です。それがまさに本県のみならず、東北におけるチーム医療の先駆けとなりました。

その後、さまざまな経緯を経て、本学は医科の単科大学として運営し、昭和40年に北海道・東北で初となる歯学部を設立しました。そして平成19年に薬学部、平成28年には看護学部を設立しました。ちょうど本学が創立120周年の記念にあたる事業として看護学部が設立され、そのときの入学生が今日、卒業して世に出ることとなります。これで医学部・歯学部・薬学部・看護学部という医療系の主要4学部の学生を輩出することができ、医療系総合大学としての再スタートを切ったことになります。

諸君はこれから、それぞれの職場で医療人として、まさに医療の最前線に立ちます。この1年ほどの間、諸君はコロナ禍の状況にあって、いかに医療人は重要な仕事であり、世の中に必要とされるかということを、身をもって体験されたことと思います。諸君には大いに活躍していただきたいと願っています。

諸君が本学に6年前、あるいは4年前に入学した当時、「このような医療人になりたい」というぼんやりとした夢を持っていたと思います。それから時を経て今まさに、それぞれが医療人となるべく花を咲かせました。これからはさまざまな医療現場で多くのことを経験し、それぞれの場所で新たな夢をつないでいくことになります。その夢をさらにつないで、より大きな夢として大輪の花を咲かせてください。

諸君がこれから向き合う患者さんとそのご家族は、体に病気や傷を持っておられ、それゆえに精神的にも傷ついておられます。諸君は、その病みや痛みを理解し、そして患者さんとそのご家族に寄り添う心優しい医療人になっていただきたいと願っています。しかし、医療・医学の世界は日々、猛烈な勢いで進歩しています。諸君がいかに心優しい医療人であろうとしても、その進歩についていけないようでは良い医療はできません。医療人は生涯、新しい進歩についていくため日々研鑽し、習得することを強いられています。つまり医療人には生涯教育・生涯学習が求められているのです。諸君は、これから国民の負託に応える医療人として、大いに努力していただきたいと思います。

修士・博士課程を修了し、学位を取得された皆さんに申し上げます。諸君は、医学・医療の真理を追究するために大学院に入学されました。そして研究テーマを選び、具体的な方法論を学び、研究を重ねて来られました。非常に大変なことだったと思います。当初はうまくいかないこともあったでしょう。その中にあっても課題をクリアし、新たな知見を得て今日の栄光があります。この貴重な経験を諸君の人生の糧として、今後とも大いに頑張っていただきたいと思います。諸君はこれから、医療・医学における指導者となります。諸君の貴重な体験を、ぜひ後輩に伝えていただきたい。このことをお願いしたいと思います。

今日を迎えたすべての諸君に申し上げます。これまでに折あるごとに、諸君に申し上げてきましたが、「やわらか頭をする」ということです。人間はやわらかい頭を持っているゆえに、いろいろなことに適応し頑張ることができる言わば万能の能力を持っています。ところが、このやわらか頭ゆえに、逆に病気にもなりやすいという両面性を持っています。それでも良い面である万能の能力は、努力次第でいかようにでも発揮することが可能です。諸君の小さい頃を思い出してください。幼少期にはいろいろなことに興味を持ち、いろいろな活動をしていたことでしょう。その頃の諸君の頭の中が、まさにやわらか頭です。神経細胞と神経細胞をつなぐシナプスのやわらかさとダイナミックさが、それを決定しています。

幼少期には、今の諸君の2倍、3倍ものシナプスの数がありました。それが成長するにしたがって徐々に削げ落ちてきます。余分なシナプスがなくなり、必須のものだけが残って効率よく伝達が行われます。それゆえ幼少期にはいろいろなことに感動していたのが、歳を経るしたがって感動する心がうすれてきます。しかし、シナプスは非常にダイナミックでやわらかい。刺激すると、新たなシナプスが生まれてきます。これは諸君だけでなく、我々の世代でも同じです。ですから諸君は大いに頭を働かせて刺激し、いろいろな事態に対応できるやわらか頭をしていてください。

やわらか頭は、感動する心でもあります。支えてくださったご家族、ご親族の皆様、あるいは教職員の皆さんに対して感謝する心にもつながります。また、患者さんの病み、痛みを理解し思いやる心も同様です。そして、研究する諸君にとっての真理を追究する心も感動する心につながります。大いに頭を刺激して、やわらか頭をして進んでほしいと思います。そして、諸君には医療人としての存在を世に問う、そういう人になっていいただきたいと願っています。

諸君は明日から、これまでとはまったく違う新しい立場で、新しい人々の前で仕事をすることになります。その意味で、いろいろなことがすべてチャレンジです。大いにチャレンジして頑張っていただきたい。これをエールとして、式辞を終わりたいと思います。誠におめでとうございました。

(令和3年3月12日大堀記念講堂)

岩手医科大学 学長 祖父江 憲治