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平成22年度医学部・歯学部4・5・6学年父兄懇談会

平成22年度医学部・歯学部4・5・6学年父兄懇談会ご父母の皆様にはお忙しい中、遠方よりご出席いただき、本当にありがとうございます。子弟も4・5・6学年となっておいでですが、あっという間の時間だったのではないかと思います。その中で、いろいろとご心配なこともおありかと思います。
本学は明治30年、北東北における医学の貧困を憂いた創始者・三田俊次郎先生が病院をつくると同時に、医学講習所をつくられたところに始まっています。そ れから113年となっています。その後、国が認める私立岩手医学校になりましたが、それから109年です。医療制度改革があって一度は廃校の憂き目を見ま したが、昭和3年に岩手医学専門学校として再発足して以来82年。そして戦後、昭和22年に大学に昇格して63年となります。
明治30年に私立岩手病院をつくったときの写真を見ると、たくさんの看護師がいます。医学講習所とともに看護産婆学校、今で言う看護助産師学校を併設した からです。日本において看護の公的育成が始まったのはこの2年後ですので、それより前に本学の創始者は、医療を進めるのであれば医師だけではいけない、 チーム医療が必要だと考え、看護助産師の養成を始めたのです。先見の明があったのだと思います。
昨年、ボストンに行き、ハーバード大学の医学部を訪ねました。当時の1号館だったという建物は明治で言えば32年のものだといいますから、本学の2年後に なります。岩手医学専門学校の校長で、大学に昇格したときの初代学長は三田定則先生といいますが、この方は東京大学の名誉教授で、台北帝国大学の初代医学 部長でした。今の台湾大学医学部のもとをつくられたのが三田定則先生です。近代国家台湾の医学のもとをつくられたことになります。その後、総長になり、そ れから岩手に戻って来られました。
その後、本学では昭和35年に大学院が設置され、昭和40年に国公私立を含めて東北では初めての歯学部として始まりました。3年前には薬学部が発足し、現在、医学系の総合大学となっています。
本学の歴史を垣間見ると、非常にユニークです。日本で初めての角膜移植をしたのは、ここ盛岡です。名誉教授の今泉亀徹先生が角膜移植をしたときに死体損壊 罪として訴えられ、医学史の中では「盛岡事件」という、たいへん有名な事件となりました。この事件がきっかけとなり、昭和33年に角膜移植法が立法化され ました。
また、脳外科の金谷先生と光野先生は、脳卒中患者は救急搬送していいと主張して、日本の医学会を左右する大論争となりました。その後、昭和51年に佐藤栄 作元首相が築地の料亭において脳卒中で倒れましたが、その際に搬送しないで治療を受けることになりました。UPI通信がそのことを「日本の元首相がゲイ シャハウスで治療を受けている」と配信し、日本の医学会は非常に恥をかいたわけです。しかし、その10数年前に、岩手医大では、脳卒中患者の救急搬送を主 張していたのです。最近では、藤原哲郎名誉教授が、世界で初めての人工サーファクタントを開発・実用化し、その結果、未熟児の治療成績が極めて良くなりま した。このような実績が岩手医大にはあるのです。
本学の目的は「誠の人間」を育成することで、それを学是として掲げてきました。現在、矢巾に新キャンパスを造っています。10年前には、世界で15台目、 日本では3台目となる機器を導入し、超高磁場MRI研究施設を造りました。以来10年間、国から研究費をいただいて約500編の英文の論文を作成し、 MRIは臨床機器になりました。当時は、頭部専用機でしたが、本学とミネソタ大学との共同研究で全身用の機器になりました。 こうした実績を受けて、再び 国から高額な研究費をいただき、7テスラという機械が入ることになりました。世界で9台目、日本では2台目です。矢巾キャンパスにはMRI研究施設ができ ており、先だってイギリスから40トンのコイルが届きました。大学の使命は教育にありますが、このように診療研究も行っています。
皆様の子弟をお引き受けしながら、最近は国家試験の成績などでご心配をおかけしています。しかし、医学部の卒業率は97%で、全国で13位です。子弟をお預かりした上は卒業させ、ほとんどは国家試験に合格させています。
先頃、全国医学部長病院長会議に出席してきました。いま問題になっているのは、国立大学の疲弊です。教員減、そして国からの国庫金が毎年1%ずつ削減され ているという状況です。そのため教育の質が非常に低下しています。1学年で20名もの留年者を出しているといいます。そのため国立大学の卒業率が極めて落 ちています。入学はするが、勉強しない者は勝手に落ちていきなさいというのが国立大学の状況なのです。大学病院の病床数は、新設の国立大学では600床規 模でつくられています。本学は1300床で、学生あたりの 病床数も教員数も多いといえます。
一方、歯学部においてもご心配をおかけしています。昭和46年に初めて卒業生を出して以来25年は、国家試験の成績がほぼ100%でしたが、ここ10年間 成績が芳しくありません。全国的にも歯科医師過剰というキャンペーンが張られ、国家試験を難しくさせています。しかし、卒業率で98.8%、ライセンス取 得率で97%という数字であることも事実です。
最後に臨床研修医制度についてです。厚生労働省が昨年、「良い臨床医の育成を目指して導入した制度だが、結果的には大変な副作用となった」と認めました。 そして、方針を変えたと表明しました。それを受けて、大学病院などの医師派遣、養成機能の強化ということが言われ始めました。基本的コンセプトとしては、 実質1年化、大学病院を中心に臨床研修病院を形成するということで、今後は大学病院で臨床研修を行ったほうがいいと言えるかと思います。
医学・歯学は生涯教育です。今の教育では、今の知識や技術しか教えることができません。しかし、非常に急速に変わっていきますので、自らが生涯学習として 最新の知識や技術を学び続けていけることが大切です。そういう意味では、大学院で学ぶことも非常に重要だと思います。本学は社会人大学院の制度を設けてい ますので、研修医をしながら大学院で学ぶことができます。
本学は、医学部・歯学部・薬学部をもち、学部間の連携を図っています。独自の研究棟をつくらず、同じフィールドで取り組み一緒のフロアで連携教育・連携診 療・連携研究を進めていくという考え方で現在、つくり変えを進めています。将来のある大学ですので、長く支えていただければと思います。
大学としては、教育・診療・研究の高度化と拡充を目指して頑張っています。全力をあげて取り組んでいきますので、ご理解くださいますようお願いいたします。

(平成22年5月28日 盛岡グランドホテル)