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平成22年度関東地区父兄懇談会(医学部・歯学部)

平成22年度関東地区父兄懇談会(医学部・歯学部)皆さまには猛暑の中、おいでいただきありがとうございます。岩手に子弟を出され、ご心配されていることと思います。できる限り、きめ細かい指導をしているつもりです。ご指摘などがありましたら、後ほどお話しいただければと思います。
現在の岩手医大が置かれている状況と、将来どういう方向に進むのかということについて簡単にお話します。
岩手医大の歴史をひも解くと、明治30年に私立岩手病院医学講習所がつくられたところから始まっています。創立113年という歴史です。その後、医療制 度改革などにより廃校を経て、医学専門学校として再発足して以来82年。岩手医科大学に昇格して63年になります。歯学部は、東北・北海道において国公私 立で初めての学部として昭和40年に設置され、昭和46年に1期生が出ています。その後、大学院、歯学研究科を設置し、平成19年には薬学部を発足させ、 2年半後の完成年度を待って、医・歯・薬統合大学院の方向に進もうという予定です。
診療・教育・研究というのは、大学におけるミッションの三大柱です。国立大学は長年続いた教員の定員削減、法人化で毎年1%ずつマイナスシーリングさ れ、また国立大学病院の運営費交付金が毎年2%ずつマイナスシーリングされているという中でたいへん疲弊しています。ひるがえって、岩手医科大学は、歯学 部40年の歴史の中で卒業率95%というのは素晴らしい数字です。入学した学生のほとんどを卒業させていることになります。国立大学は細かいデータを公表 していませんが教員不足、運営費交付金不足の中で学生に手がかけられなくなり、教育の質が落ちているのが実情です。本学医学部のここ25年間のデータが卒 業率97%です。このときは全国80大学中13番目という成績で、卒業生のほとんどが国家試験に合格しています。
しかし、皆さまに大変ご心配をおかけしているのが、医学部・歯学部ともここ数年の国家試験合格率が振るわなかったことで、学長としても非常に責任を感じ ているところです。これには裏があって、全国の国公私立すべての大学で、卒業生を絞ることによって国家試験の合格率を上げているというところが多くなって います。20名を超える卒業留置者を出している大学もたくさんあります。そうはいっても、大学の評価の一つは国家試験の合格率ではかられます。これに対し ては、全学の教員が取り組んでいますので、近々には回復するものと思っています。本学医学部は数年前まで、国公私立を含めて国家試験合格率が上位3分の1 に入っていました。歯学部も開設以来20年間、国公私立の中でトップの成績でした。このように実力を示す実績があるのですから、改善するのではないかと思 います。
本学の大学病院は1316床を運用している東北・北海道でもっとも大きな病院です。東北6県の医学部の教員数は、東北大学が513名と圧倒的に多いので すが、定員が120名あるいは125名という弘前、山形ですら教員は240名程度と、本学の半分くらいの数です。本学では、さらに将来を考え、今年2月の 理事会で承認をいただいて臨床系の教員の定員を146名増員しました。教員の定員を増やしても、医師不足や現場の医療崩壊の状況から、なかなか引っ張って くることができないというジレンマがあります。増員分を足すと588名という数になり、東北大学を抜いて東北でもっとも多い教員数となります。
研究面では、昭和24年に日本で初めての角膜移植を今泉先生が行いました。これは「盛岡事件」と言われ、死体損壊罪に問われたのですが、結果的には角膜 移植法の成立に至りました。日本初の脳卒中患者救急搬送を行ったのも本学です。このときには、日本の医学界を二分し、東京大学対岩手医大で大論争が繰り広 げられました。どちらが正しかったかということは、今や当たり前のことになっています。最近では、人工サーファクタントの開発で、小児科の藤原先生がキン グ・ファイサル国際医学賞を受賞しました。これで何十万人もの未熟児の命が救われました。
現在、矢巾キャンパスの整備が進んでいます。本学は12年前に、世界で15台目、日本で3台目となる3テスラの超高磁場MRI研究施設を造りました。こ の10年間で約500編の英文の論文が世に出され、世界で知らないところはないというほどになりました。しかし、3テスラのMRIも古くなったことから、 世界で9台目、日本で2台目の7テスラの機械を導入した施設を造りました。7月段階でほとんど出来上がっています。この施設の隣には動物実験施設があり、 このほか新しい講義棟、研究棟、管理棟があります。3テスラのMRIのときから、欧米など世界中から共同研究の依頼が来ていました。7テスラになると、ど のようなことになるか。とにかく今年度末には稼働となります。
医学・歯学は生涯教育です。ご父兄には医師・歯科医師の先生方もいらっしゃると思いますが、学生時代に学んだことで診療をしている方はいらっしゃらない と思います。10年経つと今の常識が非常識になるほど、医学・歯学は進歩・発展します。そういう意味では、教育の目的が多少勘違いされているというのが私 の主張で、文部科学省や厚生労働省にも申し上げています。大学教育は、現在の知識や技術を教えることではない。なぜなら、10年経つと、今の知識も技術も 陳腐化して、常識が非常識になるからです。ですから、生涯教育として自ら勉強できること、医師としての心の鍛錬をすることが、もっとも大事なことではない かと思います。そういう意味で、卒後臨床研修医制度というのは、非常に中途半端な制度です。卒業後たった2年の研修で、一生の知識と技術が担保されるわけ ではありません。そこで、学位や専門医が大切になってきます。
高学年の子弟をお持ちのご父兄にお願いなのですが、大学を卒業し2年間の研修医を経て大学院に入ると、学位は6年目にしか取れません。たいていの専門医 は6年目くらいをターゲットにしていますから、どうしても専門医が遅れてしまうことになります。そこで本学は、社会人大学院を開講しています。研修医をし ながら社会人大学院生となれば、従来通り4年目で学位が取れ、6年目に専門医が取れますので、最短コースで人生のキャリアパスが取れることになります。
昨日、学会があって歯学部の若いドクターと話す機会がありました。そのドクターは「失敗した」と言いました。「大学院に入っていれば今ごろ学位が取れて いたのに」ということでした。大学を卒業したときには学位の重要性が分からず臨床にばかり目が向いていたが、4年間やってみたら、学位がいかに大事か分 かったそうです。本学大学院は、授業料を半額にしました。入りやすくなったと思いますし、医学部・歯学部ともにいろいろなメリットがあります。大学院に入 ることを選択肢に入れていただければと思います。
歯学部では後期のシュミレーション実習、医学部ではミニブタを使った手術実習等が行われており、将来的には矢巾キャンパスの動物実験施設にスキルスラボ を整備する予定です。矢巾移転に伴い、医学部・歯学部の基礎講座を再編し、両者を連携していく。あるいは薬学部とも連携するという方向で考えています。魅 力ある大学にするためには、学部の連携が必要ですし、医療系大学として学部の垣根のない教育を目指しています。これは日本で初めての試みになる予定です。 大きくも小さくもない大学であるスケールメリットを生かした教育システムを作り、教育および研究をしていきたいと思います。来春には、新しい矢巾キャンパ スをご覧いただければと思います。
今年の1年生は4年まで矢巾で教育を受け、5・6年の実習で内丸に行くことになります。2年生は現在内丸ですが、3・4年を矢巾で過ごします。3年生は 実習のない学年で矢巾に行く必要がないので、内丸の講義室で学びます。歯学部でも問題になるのが2年生で、新しい実習室ができるので、矢巾に行ってもらう ことになります。また歯学部は4年生で高機能のシュミレーション実習がありますので、病院に近接したところに実習室がありますので、4年生から内丸に移動 してもらいます。このように変則的になりますが、ご理解をいただきたいと思います。
皆さまからは、この機会にさまざまな質問などをお受けしたいと思います。個々の学業の様子などは個人面談でお聞きください。今日はありがとうございました。

(平成22年8月29日 アルカディア市ヶ谷)