神経精神科学講座 児童精神科学分野

講座概要

子どものメンタルヘルスに関わる「児童精神科学分野」は、精神疾患だけでなく、不登校や非行、虐待、いじめなど多様な領域と関連があります。児童精神科は、子どもたちの育ちをサポートするために、医療、心理、行政、福祉、教育、警察、地域などの多様な社会資源と連携を図りながら、「子どもは発達する」という視点に立って治療を行い、子どものメンタルヘルスの向上を目指す診療科です。

当分野の臨床においては、成長·発達や生活背景を幅広く理解し、子ども一人ひとりがその子らしい生活を送ることができるように、教育、福祉、行政機関等と連携しながら、子どもと家族に寄り添った治療·支援を行っています。外来診療では、不登校の子どもたちが負担なく学校に復帰できるように、デイケアも行っています。入院治療では、当院には全国の大学附属病院本院においては初となる児童精神科専門病棟があり、外来診療だけでは十分な治療が難しい子どもたちに対して、医師、看護師、心理師、作業療法士、精神保健福祉士、教員などがチームとなり、包括的で専門性の高い入院治療を行っています。入院中は治療だけでなく、生活や学習への支援も行い、退院後も地域で安心して生活できるよう、切れ目のない治療·支援を目指しています。

当分野では、発達障害や児童思春期精神疾患への治療に加え、これまで東日本大震災で被災した子どもたちのケアも重点的に行ってきました。現在は、災害だけでなく、性被害、虐待、いじめなどによる心的外傷(トラウマ)を抱えた子どもへの治療にも力を入れています。エビデンスに基づいた心理療法であるトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)をはじめとした専門療法を実践するとともに、その普及や人材育成にも取り組んでいます。

また、医学部学生や研修医、精神科専攻医への教育を通して、子どものこころを理解し、多職種と協働できる医師、その先の児童精神科の専門医や認定医を取得できる専門性の高い臨床医を育成します。研究でも、児童精神医、発達障害関連、特に東日本大震災後の長期的なコホート研究やトラウマに関連治療の効果検証研究など幅広い分野で行っています。

私共は、県内唯一の大学病院の児童精神科として、臨床·教育·研究を通じて地域の子どもたちの育ちを支え、児童精神科学分野の発展に貢献することを目指しています。

特徴的な臨床の取り組み

児童精神科入院治療 

大学病院(総合病院)ならではの、小児科·産婦人科をはじめとする多科·多職種連携による総合的·包括的医療を提供します。

トラウマ専門療法

子どものトラウマ関連症に対する有効性が確立された治療法を、個別性を重視した選択のもと実施しています。

  • トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)
  • ナラティブエクスポージャーセラピー(NET)
  • メンタライゼーションに基づく治療(MBT-C/MBT-A)
  • 認知処理療法(CPT)
発達ドック

「人間ドック」のように、1泊2日/2泊3日で発達特性の評価を多角的·包括的に行います。その結果に基づいて的確に診断し、フォローアップ(養育支援、学校連携、地域連携)を行います。

教授挨拶

八木 淳子
八木 淳子 教授

 児童文学者の石井桃子氏は、次のような言葉を残しています。

子どもたちよ
子ども時代をしっかりとたのしんでください。
おとなになってから
老人になってから
あなたを支えてくれるのは
子ども時代の「あなた」です。

  (「石井桃子のことば」新潮社,2014より)

「子どもがどのように育つか」ということの重要性を、これほど端的に表した言葉はないのではないかと思います。私たちは、はじめから現在のような「大人」として暮らしてきたわけではないことを、頭ではわかっているつもりでも、いつの間にか「子どものこころ」を忘れてしまっていることに気づかされることがあります。

発達精神病理学は、子どもの精神症状を横断的に判断して診断名を「下す」のではなく、目の前のこの人(子)は、どのように生きてここに至ったのか、という視点で、現在の発達的特徴や精神医学的症状·行動の成り立ちを考えていく学問です。子どもは環境の影響を受けながら育ち、本人の資質と学習(影響)の相互作用によって、様々な個性を開花していきます。そのような育ちの過程で、何らかの不具合がおき、安心や安全が脅かされ、発達が阻害されたときに、精神症状や行動上の問題として現れることがあります。児童精神科医は、子どもの育ちの軌道をより健全でその子らしいものに復すことができるよう、サポートしていく役割を担います。

 精神医学全般の知識に加え、養育者支援や動機付けのための様々な手法や技術を学び、学校や地域、福祉と連携して子どもを支えるためのエコロジカルモデルの一員として協働するためのコミュニケーション力も問われます。臨床のさまざまな局面で難しさを感じることも多いのですが、それだけに、やりがいや人とのつながりの温かさ、子どもの成長を見ることのできる喜びなど、他では得難い経験ができる分野でもあります。

 「知識は力なり」という言葉がありますが、生きづらさを抱えた子どもや家族をサポートする際に必要なのは、知識と経験に裏打ちされた「やさしさ」ではないかと思います。当分野は、全国でも珍しい大学病院本院の中に児童精神科専用病棟をもつ児童精神医学の独立した講座です。児童精神科全般の入院治療はもちろん、さまざまなトラウマ専門療法や研究、災害対応、被災地支援·研究まで幅広く取り組んで参りました。この恵まれた環境を生かして、児童精神医学の発展に貢献すべく、地域の皆さまの多様なニーズに応えられる講座·診療科を目指して、チーム一丸となって日々研鑽に励んで参ります。

講座スタッフ

教授八木 淳子やぎ じゅんこ
講師山家 健仁やんべ たけひと
講師内出 希うちで まれ
特任講師吉岡 靖史よしおか やすひと
助教粟津 菜津美あわづ なつみ
助教佐々木 夢佳ささき ゆめか

講座における主たる研究テーマ

  • ·被災地コホート研究(子どもの育ちと親子のメンタルヘルスの関連)
  • ·子どものトラウマ/ストレス関連症の評価と治療効果検証
  • ·発達特性/強度行動障害とトラウマの関連
  • ·小児期逆境体験の精神医学的影響

講座の主な業績

  1. Fukuchi N, Chiba S, Yagi J, Masuya J, Matsuura N, Suzuki E. Parental Subjective Disaster Experiences and Behavioral Problems in Children Born After the Great East Japan Earthquake: An Intergenerational Perspective. Child Psychiatry Hum Dev. 21. (2026.1)
  2. Mayanagi T, Yagi J, Ohmomo H, Akasaka M, Fukumoto K, Chiba S, Komaki S, Shimizu A, Yanbe T, Uchide M, Yoshioka Y, Ogawa K, Ishikawa C, Minabe S, Ito J, Ono K, Kaneko N, Sobue K. Inter-individual differentially methylated region-targeted EWAS reveals epigenetic signatures of early childhood adversity. Epigenomics. 18(1):89-100.(2026.1)
  1. Kakisaka K , Yanbe T , Chiba S , Matsuo N , Yoshioka Y , Uchide M , Yagi J . Mental health of mothers who gave birth immediately after the Great East Japan Earthquake and behavioral problems of their children: a 5-year follow-up study focusing on the pregnancy trimester at the time of the disaster . JIMA . 76(4):121-140.(2024.10)
  1. Koyama Y, Fujiwara T, Doi S, Isumi A, Morita A, Matsuyama Y, Tani Y, Nawa N, Mashiko H, Yagi J, the Great East Japan Earthquake Follow-up study for Children (GEJE-FC) team. Heart rate variability in 2014 predicted delayed onset of internalizing problems in 2015 among children affected by the 2011 Great East Japan Earthquake. Journal of Psychiatric Research. 151:642-648.(2022.7)

 

  1. Koyama Y,Fujiwara T,Yagi J,Mashiko H,Great East Japan Earthquake Follow-up for Children Study Team.Association of parental dissatisfaction and perceived inequality of post-disaster recovery process with child mental health.Soc Sci Med.2022;296:114723.(2022.3)
  1. Ono S, Yagi J, Fukumoto K, Yoshioka Y, Otsuka K. Factors related to long-term outcomes of children’s behavior problems after the Great East Japan Earthquake and Tsunami – Follow-up survey in Iwate Prefecture -.Journal of Iwate Medical Association.72(4):157-170.(2020.10)
  2. Matsuyama Y,Fujiwara T,Sawada Y,Yagi J,Mashiko H,Kawachi I,Great East Japan Earthquake Follow-up for Children Study Team.Delay discounting in children exposed to disaster.PLos One.15(12).(2020.12)
  1. Honda Y,Fujiwara T,Yagi J,Homma H,Mashiko H,Nagao K,Okuyama M,Ono-Kihara M,Kihara M.Long-Term Impact of Parental Post-Traumatic Stress Disorder Symptoms on Mental Health of Their Offspring After the Great East Japan Earthquake.Front Psychiatry.10:496.(2019.7)
  2. Orui M, Tanaka E, Maeda M, Yagi J, Kondo K, Nomura K, Ito H, Ohira T, Inoue A, Tsutsumi A. Mental health and suicide prevention during disasters. Nihon Koshu Eisei Zasshi. 67(2):101-110. (2020.2)