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※平成28年8月1日より、災害医学講座は救急・災害・総合医学講座の災害医学分野に再編されています。
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災害医学講座教授より

教授 眞瀬智彦

災害医学講座として独立した講座は、当講座が日本で初の講座です。当講座は東日本大震災・津波を契機に、平成23年9月に開設されました。震災時の活動を総括・検証し、今後起こりうる大規模災害へ医療支援のあり方を提言すると共に、災害医療の担い手となる医療人の育成を目指します。

講座設置の経緯

東日本大震災以降、本学では、各講座・診療科が沿岸病院からの患者受け入れ体制の整備、沿岸病院への医療チームの派遣、避難所での巡回診療、検案業務等を行うとともに、すでに現地での現状把握や医療活動を展開していた関係機関・団体が協働して「いわて災害医療支援ネットワーク」を立ち上げました。そこでは、全体での情報を共有し役割分担することで各々の活動を推進するとともに、県外から派遣申し出のあった医療救護班のマネジメント、傷病者の広域搬送、医薬品・医療資器材の供給、被災者への検診活動、避難所環境整備の調査と提言、感染対策など様々な活動を展開しました。

本学では、沿岸地域への長期的医療支援を行うとともに、こういった経験から見えてきた課題を検証し、今後の大規模災害時の医療支援のあり方を提言することを目的として、平成23年9月1日より災害医学講座を設置しました。

講座基本理念

  • 医療活動とともに、人命救助、通信と情報、物流、生活環境とコミュニティー形成等、幅広い視野から情報を集約し災害時対応の検証を行います。
  • 科学的方法を用いて、今回得られた様々な経験から課題を抽出します。
  • 防災・減災を念頭に、今後の災害時対応の具体的なあり方を国内外に発信していきます。
  • 得られた知見をもとに、学内外の医療従事者等育成に貢献します。

主な研究内容

  1. 「いわて災害医療支援ネットワーク」の課題と都道府県による後方支援のあり方の検討
  2. 岩手県で実施された超急性期から急性期における病院間搬送の実態把握
  3. 市町村の災害時保健医療活動のコーディネートに関する実態把握
  4. 発災後の医療ニーズの把握を目的とした医療救護班活動の実態把握と診療録の分析
  5. 避難所の生活環境の実態把握にもとづく環境整備のあり方の検討

災害医学講座スタッフより

助教 赤坂博

 東日本大震災発災後に立ち上げられた「いわて災害医療支援ネットワーク」において実務に関わった経緯から、当講座では大震災の資料整理や解析を担当しています。臨床心理士です。
 大震災では、発災直後から、保健・医療に限らずありとあらゆる領域からの人的・物的支援がなされました。一方で、被災地では深刻な通信の途絶、情報の混乱が起きており、外部からの支援の調整に相当な労力を要したことが指摘されています。ネットワークの活動でも、支援する側と支援される側の「ずれ」を日々感じ、さらに、被災地内の自助や共助に触れ、「支援する側」「支援される側」という関係自体も一様ではないと考えるようになりました。
 人や物や設備の存在だけでは災害への備えとして十分ではありません。制限のある中で、想像力を持って全体を俯瞰した上で優先度(プライオリティー)を判断し、必要な人に届けるための仕組み(システム)を整えていくことが重要になります。大震災以降、わが国では今後起こりうる大震災への対応の議論が活発化しています。当講座からも具体的で説明力のある提案ができるように、学際的な視点から研究活動を進めていきます。

助教 藤原弘之

 災害医学の中でも、情報通信を中心としたロジスティクスの分野を専門としております。
 大規模災害時、被災地内では通信施設や通信機器が被害を受け、円滑な情報のやりとりが行えず、大混乱に陥る可能性が極めて高く、これは人命救助活動においても大きな妨げとなります。このように普段の通信環境が破たんした状況においても、円滑な情報共有を実現するために、様々な観点から情報共有化体制の検討、及び災害時に有効な通信機器の使用方法についての人材育成を行っております。
 また、大規模災害時は情報通信のみならず、生活環境や物流、移動手段といったロジスティクス面での充実が鍵を握ります。東日本大震災においても、多くの医療チームがロジスティクスの面での不足により活動に支障をきたしたとの報告が多数あがっており、災害医療分野におけるロジスティクス面の強化が急務といえます。本学ではロジスティクスに特化した研修を立ち上げ、実災害に近いシチュエーションで展開することにより様々な問題の抽出や人材育成を行っております。
 これらロジスティクス面の充実は、災害超急性期から慢性期どのフェーズにおいても必要不可欠であり、なおかつ行政のコーディネート体制及び避難所などにおいても継続的な充実が求められる部分であり、今後起こりうる大規模災害に向けて、より強化すべく日々研究を重ねております。

活動実績

平成25年度までの活動実績をご紹介します。

岩手県における超急性期から急性期における病院間搬送の実態把握

岩手県災害対策本部内で活動した岩手県DMAT調整本部の活動記録を集計し、東日本大震災・津波発災後の3月12日から18日にヘリコプターにて広域搬送された患者191名の予後の整理を行いました。

第25回日本集団災害医学会(平成26年2月25日~26日、東京)にて上記集計結果を発表し、今後のわが国における広域搬送やSCU(Staging Care Unit)のあり方を提言しました。

岩手県における避難所の生活環境に関する実態把握

「いわて災害医療支援ネットワーク」等が発災1ヶ月後に実施した岩手県沿岸部の主要避難所52ヶ所の生活環境に関するデータ及びその後に災害医学講座等が実施したフォローアップ調査のデータについて、解析を実施しました。 避難者数、年齢構成、施設種別といった基本情報のほか、電気・水道・通信・食生活の状況、管理のための自治や人的/物的支援の状況、要援護者への対応状況、生活スペースへの自己評価等、多くの調査項目があり、単純集計で整理をしながら、項目間の連携について検討しました。 また、平成25年6月より、「まちづくり」や「コミュニティーデザイン」を専門とする岩手県立大学総合政策学部倉原宗孝教授との情報交換を行っています。

なお、この解析は現在も継続中であり、平成26年度中に完了する予定です。市町村を越えた50ヶ所以上の継時的な避難所生活の報告は本邦では例がありません。 本調査の結果の一部からは、避難所生活の質を左右する要因として、インフラの整備や物資の供給のみならず、自助・共助が大きな役割を果たしますが、特に自治が活発な避難所では、避難者の満足度は高くならず、生活の質を向上させるために積極的に取り組むことが示唆されています。 避難者の生活に対する意識は、避難者の健康問題とも直結します。本調査のデータは、避難所の立ち上げや後方支援の今後のあり方に資するものと期待されています。

大規模災害の医療救護班へのニーズの把握を目的とした診療録の分析

岩手県などの関係機関と共同で、岩手県沿岸部で活動した医療救護班の診療録の解析準備を進めました。 平成25年度は、全てのデータが揃っておらず、試験的に釜石市の避難所/救護所1ヶ所の診療録情報4,000件について、年齢・性別・既往歴等の患者背景、臨床症状と診断、処置と処方に関するデータのコーディングを行い、全データの集計と解析に向けてのフォーマットを作成しました。また、単純集計をもとに傾向を確認しています。

一部ではありますが、上記の釜石市のデータ解析結果をもとに、学術講演を行っています。全体のデータについては、平成26年度中に完了する予定です。
傾向からは、慢性疾患に対する処方を希望しての受診が約4割を占めるということが明らかになっています。従来、救護所での医療ニーズとしては、外傷や感染症等の急性疾患に重きが置かれていましたが、本調査の知見を踏まえ、救護班の編成、派遣期間、チームが常備する医薬品と医療資機材の内容、被災地外からの医薬品の供給、患者の災害時の備え等、今後の広域災害における医療のあり方に関する提言が可能となります。

大規模災害の都道府県における後方支援のあり方検討

急性期以降の保健医療活動のコーディネートを行った「いわて災害医療ネットワーク」の運営会議事録(2011年3月26日~6月6日分)について、継時的な保健医療ニーズの変化や実際対応についてコーディングを行いデータ化しました。 コーディングでは、議事を1つの単位として、その情報源、対象となる地区、情報内容、議事の目的の4つの項目についてそれぞれ分類を行いました。 合計43回の会議議事録から777個のトピックが抽出され、その継時的な変化について概況を確認しています。

上記解析は継続中であり、平成26年度中に完了する予定です。東日本大震災・津波発災後の岩手県では、県レベルの動きと市町村レベルの動きが錯綜し、十分機能していなかったということが問題点として指摘されていますが、県には様々な医療ニーズに関する情報が入っており、それに対する対応もなされていたとする指摘もあります。
県レベルの取り組みがどのようなプロセスのもとで決定し実行されていったのか、具体的な報告はなされておらず、今後の大規模災害時の急性期以降の災害コーディネートのあり方を含め、基礎的なデータとしても成果が期待されています。

超急性期から急性期における岩手県沿岸部の救急搬送および入院動向調査(ヒアリング)

国立病院機構災害医療センターと共同で、岩手県沿岸部の中核医療機関9ヶ所において発災時における入院患者の傷病名と転院先・搬送者数、搬送方法などの聞き取り調査を実施しています。

なお上記調査は継続調査中です。

岩手県の自治体における保健医療行政の初期対応に関する実態調査(ヒアリング)

岩手県沿岸部で広域に渡って被害を受けた自治体6ヶ所(宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市)における保健医療担当課の担当者から発災後の初期対応について、昨年度に引き続きヒアリング調査を実施しました。

この調査結果は第41回日本救急医学会(平成25年10月21日から23日、東京)、第19回日本集団災害医学会学術集会(平成26年2月25日~26日、東京)にて発表しています。