◆解体新書
ヨハン・アダム・クルムス著、杉田玄白ほか訳、安永3年(1774)刊
復刻版 講談社 1973年
写本 年代不明

  解体新書は、ドイツ人医師ヨハン・アダム・クルムス(Johan Adam Kulmus,1687-1745)の解剖書「Anatomische Tabellen」のオランダ語訳、「ターヘル・アナトミア」(1734年刊)を日本語訳したものである。 翻訳は杉田玄白・前野良沢が中心となり、中川淳庵・桂川甫周・石川玄常らが参加した。解剖図は、秋田藩士小野田直武が模写した。 本文4巻と序文・凡例・付図の1巻、計5巻からなり、初版本は木版刊行である。
  本書成立のいきさつについては、杉田玄白著「蘭学事始」(薬学所蔵 402.105/Su46)に詳しく述べられている。 明和8年(1771年)、江戸小塚原の刑場で行われた刑死体の解剖に、玄白・淳庵・良沢が立ち会い、手にしていた「ターヘル・アナトミア」の正確さに深い感動を受け、刑場から帰る途中に蘭訳を決意した。 オランダ語の知識は良沢がわずかに持っていただけで、満足な辞書もない中での翻訳は困難を極め、完成までに3年半を費やし、改稿は11回に及んだ。 「誠に艪舵なき船の大海に乗り出せしが如く、茫洋として寄るべきかたなく、ただあきれにあきれて居たるまでなり」は有名な一文である。
  凡例に「訳三等あり、一に曰く翻訳、二に曰く義訳、三に曰く直訳」とある。 三等とは三種類、「翻訳」はそのものずばりオランダ語に相当する日本語の名称が、すでに昔から存在しているもの、「義訳」とはオランダ語に相当する日本語がないので、言語の意味から新たに日本語をつくったもの、いわゆる新語である。 軟骨、神経、門脈などがこれにあたる。「直訳」はそれに相当する適当な日本語が見つからない時、新語を作らずにオランダ語の発音に合わせて漢字を書き、それにふりがなをつけて読み方を示したものである。 機里爾(キリイル)などがこれにあたるが、この直訳が全篇を通じてはなはだ多いことは、最初の翻訳がいかに困難であったかを示すものである。 本文は漢文であるが、返り点、送り仮名がついていて読みやすい。解剖図はクルムス解剖書以外にも、トンミュス解体書やブランカール解体書など5つの解剖書が採用され、どの図がどの本に由来するか、符号をもって明瞭に示している。

*参考 「解体新書」 小川鼎三 中公新書1968(薬学WZ112/O24)
     秋田県立図書館ホームページ