◆醫範提綱
宇田川榛齋(玄真)訳述;諏訪俊 筆記,青藜閣,巻之1-3, 文化2年(1805)

  宇田川榛齋(1769-1834)は、オランダのいろいろな解剖書を翻訳して30巻にも及ぶ『遠西医範』を著したが、大部すぎて出版できなかったため、その内容を要約して3巻にまとめたものが『醫範提綱』である。
本書は神経・脳髄・心臓・呼吸器・消化器・生殖器・皮膜などの項目に分けて、それぞれに簡明な説明を加えている。 本書の解剖用語については、『重訂解体新書』(1826年刊行の草稿)を参考にしたが、オランダ語の音訳であった 「奇縷(ゲール)」「機里爾(キリイル)」「大機里爾」を「乳糜(にゅうび)」「腺」「膵」とし、「薄腸・厚腸・縮腸・小水管・筋根・蛮度」を 「小腸・大腸・結腸・尿道・腱・靭帯」とするなど、現在も使用される用語に改訳し直したものが多数ある。
本書は、解剖学のみならず生理学や病理学にも触れており、手頃なサイズと平易な内容から当時の医師に歓迎され、 その後何度も再版されて江戸時代に最も普及した解剖書となった。

◆醫範提綱内象銅板図
宇田川榛齋(玄真)著,亜欧堂鐫,文化5年(1808)

  日本最初の銅版の解剖図譜。宇田川玄真と藤井方亭は、『醫範提綱』を執筆中、蘭書解剖図の精密さに感心し、 『醫範提綱』の附図を銅版画で仕上げようと考え、松平定信の御絵師 亜欧堂田善に依頼した。 田善は、玄真が『醫範提綱』を著す際に使用した蘭書のいくつかを提示され、図を模写し腐蝕銅版画とした。
田善の細かく巧みな表現を施した銅板画は、玄真や方亭をはじめ多くの蘭学者を満足させた。

参考文献
磯崎康彦,『医範提鋼』と『医範提鋼内象銅板図』,人間発達分化学類論集, 15, 50-37, 2012