東日本大震災を越えて地域医療の連携づくり 岩手医科大学
沿岸部の医療機能状況(4月15〜22日・朝日新聞調べ)
甚大な被害を受けた沿岸部では、震災から1カ月以上たった4月の段階でも、外来や手術、入院などの診療を制限している病院が多数存在する状態でした。医療支援のチームが避難所を中心に軽症患者の治療を行っていましたが、入院が必要な治療は綱渡りの状態が続いていました。
本学における支援体制
本学では図1の組織体制により、支援活動を行っています。また、沿岸部被災地への効果的な支援活動を行うため、小川学長や小林附属病院長をはじめとした本学職員が複数回にわたり沿岸部被災地の視察を行っています。

学長メッセージ
遠野に前線基地を設置・苦難の連続の避難所診療
[第2報]2011.03.17
東北地方太平洋沖地震に関する第一報のメッセージを先日HP上に公表いたしました。
 
しかし、事態は時々刻々変わってきております。基幹災害拠点病院として県と連携し、全県のセンターとして活動している岩手医科大学から、近況をお伝えします。

前回、救命救急医療から、避難所における慢性疾患治療、健康管理、衛生管理による二次災害予防に移っている事を指摘しました。一方、支援物資は到着しているにもかかわらず、避難所への搬送が遅れており、孤立している避難所では一つのおにぎりを4人で分け合っている程切迫した状況で、各避難所への食料供給にも問題が山積です。

本学は複数の「避難所診療チーム」を、被災地に近く被害が少なかった遠野市(福祉の里)に「避難所診療の基地」を置き、宮古市以南の、壊滅的打撃を受けた地域に送っています。800~900名の大きな避難所では200名を超える患者さんが殺到している状況です。現在、本県では約5万人の被災者が375か所の避難所に避難しています。(県対策本部調べ16日現在)しかし、詳細不明の避難所、被災者がその他多く存在している状況です。

また、気仙地方の基幹中核病院である「県立大船渡病院」では、圏域の陸前高田、大船渡の町はほぼ全壊し、市内の診療所機能は停止、医療供給は高台にあり被害が少なかった県立大船渡病院のみに頼っています。しかし病院職員は帰る家もなく、病院での寝泊まりを余儀なくされています。食料も枯渇し最低限のもので維持せざるを得ない状況です。疲労も極限に差し掛かっています。

食糧など緊急支援物資は倉庫までは届いています。医薬品、医療材料も不足していますが、緊急に必要な物品は1にも2にも「ガソリン」です。「避難所への医療チーム」の移動にも「沿岸病院医療体制維持のための医師」派遣にも、病院機能維持のための職員移動にもガソリンが必要です。避難所、沿岸被災地の基幹病院への食糧、医薬品、医療材料輸送もガソリン不足によりままならない状態です。

このような状況を勘案し、被災後早期から「ガソリン」等エネルギー供給について関係省庁を通じて強く要望してきました。海江田経済産業大臣は石油備蓄の放出を14日夕方臨時会見で明言しました。その後3日も経過したにもかかわらず、被災地のエネルギー供給は改善しておりません。何故このような理不尽な状態が発生するのか全く理解できません。

もう一点極めて重要なことは、避難所や各病院との連絡が取れないことです。情報不足のため、必要な物品、人員が適切に配備出来ないことが復興を大きく妨げています。早急に電話等通信の回復を強く望みます。
 現在の被災地の状況は「戦場」です。数時間の遅れは、避難所の被災者の命にかかわる大問題です。事実最悪の事態も起こっております。「平時」ではありません。現場の悲鳴に耳を傾けず、ただ時間だけを経過させるのであれば、国民の命は守れません。

このような中で、私から、必要物資の確保を県知事に対し強く申し入れました。その結果、知事から、3月17日、国の災害対策本部宛て必要物資の早急な提供を要望したところであり、国の速やかなる対応を強く期待しております。

政府には、更なる迅速な対応を切にお願い申し上げます。
岩手医科大学 学長  小川 彰
インタビュー
避難所医療の状況
災害医療支援チーム
(臨床検査医学講座 講師)
高橋 進
沿岸部の避難所などでの医師不足は地域の方々にとって切実な問題でした。小林病院長の招集で各医局から派遣医師が募られ、多職種で構成された岩手医科大学独自の「災害医療支援チーム」によって被災地に医療支援を行うことになり、私も2日間参加させていただきました。

朝7時30分、高度救命救急センターからバスで被災地に向かいました。被災地に入るとテレビとは違う周囲360°瓦礫の山が続いていて言葉を失い、改めて津波の恐ろしさを実感するとともに、現地でこれから始まる診療に身の引き締まる思いがしました。

避難所となっている長部小学校で地元の医師と打ち合わせを行ったあと、避難所を次々訪問し空いたスペースを利用して診療を行いました。

高血圧や糖尿病など、慢性疾患治療中の患者さんの薬切れが大多数であり、医療の行き届いていない現状を知りました。カルテもない状況でしたので、患者さんからのヒヤリングや、所持している薬などをもとに投薬を行いました。夜は大学に戻ってその日の診療状況をもとに、薬剤師が薬品などを補充し、次の日の担当者にバトンタッチするという毎日が続けられました。

リアス式海岸特有の地形から、主要道路が不通になると脇道は入り組み人の移動が難しくなる沿岸部。携帯電話がつながらない状況がより現場を混迷化させた気がします。災害による携帯電話不通時の通信手段の確立は、今後の大きな課題だと感じました。
被災地を視察する小川学長
情報を交換する支援チーム
猶予を許さない状況に実行計画を詰める対策本部
支援物資の運搬を阻むガソリン不足

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の中を避難所に向かう災害医療支援チームのバス
患者さんとコミュニケーションを取りながら診療