地域医療の砦として県民の命を守る 高度救命救急センター

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地域医療の砦として県民の命を守る 高度救命救急センター

震災から10年、今まで、そしてこれから

昭和55年に設立された岩手県高度救命救急センターは、県内唯一の高度救命救急センターであり、全国でも稀な自己完結型の救命救急センターだ。

北海道・東北では最初の高度認定を受けた施設

救急車で搬送された患者の、転院または退院までを一貫して診る「自己完結型」

本学の高度救命救急センターは、一般的な救急疾患以外にも心肺停止や重症・多発外傷、重度四肢外傷、広範囲熱傷、中毒、特殊感染、重症敗血症や多臓器不全など、単科では治療や管理が難しい病態に対し、初期治療から手術、集中治療、急性期リハビリまで、一貫した迅速かつ円滑な医療を可能とする救急センターだ。そのため複数の診療科が、それぞれ独自の治療法を展開するわけにはいかず、治療戦略を立てて一貫して行うことが重要となる。同センターは高度認定が全国で4番目、北海道・東北では最初に認定を受けた施設で、全国でも稀な自己完結型救命救急センターだが、その特徴を岩手県高度救命救急センターの高橋学准教授に伺った。

「日本の救急センターは、主に『自己完結型』と『ER型』の二つに分かれます。当センターは患者さんの治療をセンター内で完結させる『自己完結型』となります。救急車で搬送され、必要な患者さんには手術や集中治療管理を行い、症状が改善し一般病棟に移動できた患者さんには積極的にリハビリテーション、そして転院または自宅退院までを一貫して当施設で診るという体制です。『ER型』では搬送された患者さんの初期対応がメインとなりますが、当センターは手術や集中治療の技術も身につけた医師の育成を目標としており、このような体制をとっています」

自己完結型の体制を維持するために以下のようなスタッフ体制を組んでいる。医師が35名、看護師は外来と病棟を合わせて70名、その他、技師、薬剤師、クラークなどが配置されている。自己完結型の体制を維持するためには診療科の垣根を越えたチーム医療が必要となり、同センターには救急専門医以外のサブスペシャリティを持つ医師が多数在籍し、自分の専門領域以外の症例についても医局全体でカンファを重ねながら、積極的に治療経験を積み、医師としてのスキルアップを心がけている。

広域な岩手県には欠かせないドクターヘリ

救命救急センターといえば欠かせないのが、近年テレビドラマでも取り上げられ、一般にも知られるようになったドクターヘリだ。かつての救急医療では診療は救急車が病院に到着してから行われていたが、ドクターヘリのシステムでは医師や看護師が現場から医療を開始できる。また、ヘリを用いることにより現場まで短時間で到着できるので、広域な岩手県においては欠かせない医療システムとなっている。現在、ドクターヘリの年間の出勤回数は昨年は356回で、県内の重症患者については、ほとんどが同施設へ搬送となっている。同センターでドクターヘリを運営するメリットはどこにあるのだろうか。

「瀕死の状態にある傷病者の元に迅速に医師・看護師を早急に派遣して初療を開始し、その状態を評価できることが最大のメリットです。ドクターヘリとは、救急医療用の医療機器、薬剤等を装備・搭載したヘリコプターであって、救急医療の専門医及び看護師が搭乗して救急現場等に向かい、現場等から医療機関に搬送するまでの間、傷病者に救命医療を行うことができる専用のヘリコプターをいいます。目的は大きく分けて、①一刻も早い初療開始、②集中管理を必要とする転院搬送、③災害支援の3つがあります。迅速に対応することで、救命と後遺症の軽減に繋がると期待しています。特に本州一の面積である岩手においては、これらは患者の救命のための重要な条件となります」

自然災害や感染症パンデミックの経験を今後に活かして

新生児をドクターヘリで搬送することで、救命率を向上

県と岩手医科大学では、2022年4月からドクターヘリで新生児の搬送を始めた。新生児や未熟児の他、緊急措置が必要な新生児集中治療室に入院する子どもが対象で、地域の中核病院から高度医療を提供する同大附属病院へと運ぶ。新生児をヘリで搬送することにどのような効果を期待しているのだろう。

「主に地域周産期母子医療センターである医療機関との間で、緊急の医療的処置を要する未熟児、新生児若しくはそれに準じるNICU入院中の児を対象として施設間搬送を行います。フライトドクター、フライトナースに加え、小児科医師も搭乗し、集中管理をしながら搬送することができます。特に陸路搬送では片道2時間~2時間半程度を要していた沿岸部医療機関からの搬送時間に関しては20~30分程度と大幅な短縮が見込まれます」

ドクターヘリは災害時にも活躍する。実際、東日本大震災では多くのドクターヘリが花巻空港に集まり、沿岸から内陸への患者の搬送で活躍した。また、災害時の活躍といえば当センターには災害派遣医療チーム(DMAT)がある。具体的な活動はどのようなことを行っているのか。

「災害発生時、都道府県庁にDMAT調整本部を設置し、県内外の調整活動、また、被災地内の災害拠点病院などでの医療支援・傷病者搬送、広域医療搬送拠点での活動・搬送航空機内での医療活動、災害現場での医療活動等を行います。近年では感染症パンデミックでの活動もDMATの役割となりました」

DMATは3チームあるが、メリットとしては複数チームを保有することで、同時期に複数の活動が可能となること、また、災害支援が長期化した場合にチームを交代しながら長期の支援が可能となる。災害派遣医療チームは令和元年の台風19号の豪雨にも出動し、避難所の回診や病院間患者搬送などの被災地支援を行った。

セカンドキャリアの選択にも有利になる技量を身につける

それでは現在の高度救命救急センターの課題は何なのか。

「救急医不足です。救急医を志す医師は全国的にも少ないため、医師充足率の低い岩手県ではやむをえないのかもしれませんが、この問題を解決するためにも、患者の初期対応だけではなく、手術や集中治療管理、また専門の垣根を超えた広い視野を持った医師の育成を目標としています」

震災やコロナ、数々の自然災害を経験してきた東北の高度救命救急センターとしてこれから果たすべき役目は。

「今後も予想外の災害は十分起こりえます。そのような状況であるからこそ、夜中であっても、どんな困難な症例であっても、断ることなく必ず引き受けてくれる病院がある、このような岩手県最後の砦の施設としての自覚を持ち、今後も活動していきたいと考えています」

救急医学は医学の原点であり、救急診療は医療の原点といわれている。今後の展開としてはドクターカー構想やECMOセンターの計画もあり、これからも同センターは地域医療の砦として、また地域医療を支える教育機関として、岩手県の救急・集中治療の発展に貢献していくことが期待されている。