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治療内容・成績

大腸がん

大腸がんとは

大腸は小腸で栄養分を消化吸収された残りの腸内容物の水分を吸収しながら大便にするところです。大腸の長さは約150cmといわれていますが、日本人は欧米人より長く約200cmくらいです。約130cmの結腸と約17cmの直腸、約3cmの肛門(肛門管)からなります。がんのできやすい部位は日本人ではS状結腸と直腸です。
大腸がんの罹患率、死亡率はともに男性のほうが女性の約2倍と高く、結腸がんより直腸がんにおいて男女差が大きい傾向があります。
男女とも罹患数は死亡数の約2倍であり、これは大腸がんの生存率が比較的高い(治る確率が高い)ことと関連しています。
大腸がんの罹患率の年次推移は、男女とも1990年代前半までは増加し、その後は横ばい傾向です。また、死亡率の年次推移は、男女とも戦後から1990年代半ばまで増加し、その後漸減傾向です。

以上のように国内での大腸がん発生率は増加傾向にありますが、特に岩手県はがん死亡に占める大腸がん死亡率は国内第一位です

大腸がんの危険因子(なりやすい要因)を以下に示します。

  • 大腸がんに罹る家系:特に55歳以前の罹患や癌の多発の場合著明である。
  • 年齢:大腸癌に進行するリスクは年齢とともに増加する。その多くは60歳代から70歳代で発症する。50歳以下の場合は、遺伝的に若年齢の大腸癌を罹患する家系以外はあまり見られない。
  • がんの既往歴:卵巣癌、子宮癌、乳がんに罹患した婦人は、大腸癌に進行するリスクが増大する。
  • 家族性大腸腺腫症(Familial adenomatous polyposis;FAP)の患者:全大腸切除を施されない場合はほぼ100%ががんに進行する。
  • 慢性化した潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)や大腸のクローン病(Crohn's disease)の患者:全大腸切除を施されない場合には25年後でおよそ30%が大腸癌となる。
  • 遺伝性非ポリポーシス大腸がん(hereditary nonpolyposis colorectal cancer;HNPCC)別名
  • 喫煙:日本人を対象にした疫学研究を系統的に総括した論文(2006年)では、喫煙習慣は、日本人では大腸がんリスクを上昇させる可能性があると結論しています。
  • 食事:過去、新鮮な果物や野菜(食物繊維)をとり、動物性の食肉を減らすと大腸がんのリスクが低減すると言われてきましたが、最近の研究調査では否定的な結果が出ています(野菜・果物をよく食べる人の大腸がん発症リスクは食べない人と同じ、肉を良く食べる人でも、大腸がん発症リスクは高くならない)。食物繊維は摂取量が極端に少ない(平均約6g)人に限ればリスクが高くなるものの、それ以外の場合は関係がないと考えられています。いずれも食事と大腸がんに明確な関係は証明されていません。
  • ウイルス:ある種のウイルス感染(例えば、ヒトパピローマウイルス human papilloma virus)は大腸がんとの関連が知られています。
  • 運動量:活発に運動する人々は大腸がんに進行するリスクが低いといわれており、過体重と肥満で結腸がんリスクが高くなることが確実とされています。よって、大腸がんの予防要因としては、運動の結腸がん予防効果が確実とされています。

さまざまな危険因子をあげましたが、残念ながら大腸がんを完全に予防する方法はありません。早期発見・早期治療が最も重要なのです。

大腸がんは早い時期に発見すれば、内視鏡的切除や外科療法により完全に治すことができます。少し進んでも手術可能な時期であれば、肝臓や肺へ転移(これを遠隔血行性転移と呼びます)しても、外科療法により完全治癒が望めます。つまり、外科療法が大変効果的です。しかし、発見が遅れれば、肺、肝臓、リンパ節や腹膜などに切除困難な転移がおこります。こうした時期では、手術に加え放射線療法や化学療法(抗がん剤治療)が行われます。いずれにしても、大腸がんの第一治療は「手術」です。

手術を受けた後に再発することもあります。術後は定期的に(3~6ヶ月の間隔)再発チェックのための検査を受ける必要があります。肝臓、肺に転移しやすい臓器であり、また、切除した部位(特に直腸がん)に局所再発がおこることもあります。大腸がんは他のがんとは異なり、早い時期に再発が見つかれば、再発巣の切除により完治も期待できます。再発の8割以上は術後3年目以内に発見されます。手術後、5年以上再発しないことが完治の目安です。しかし、術後5年経過後の再発が1%程度、そして再度大腸にがんができる(異時性多発がん)可能性があるため、術後5年間の定期検査を終了した後でも市町村のがん検診は毎年受けることは必須です。
大腸がん検診の重要性については-厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-(http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/47/colon_bloodtest.html)を参照ください。

大腸がんの症状について

大腸がんの自覚症状は、大腸のどこに、どの程度のがんができるかによって違います。  
がんに特徴的な症状はなく、良性疾患でもがんと類似した症状がおきます。便が細くなる(便柱細少)、残便感腹痛下痢と便秘の繰り返しなど排便習慣の変化に注意するべきで、これらはS状結腸や直腸に発生したがんにおきやすい症状です。血便は頻度が高い症状で、がんの中心が潰瘍となり出血がおきるためです。痔と勘違いして受診が遅れることもありますので注意しましょう。がんによる血便では肛門痛がなく、暗赤色の血液が便に混じったり、ときに黒い血塊が出るなどの特徴があります。肛門から離れた盲腸がんや上行結腸がんでは、腸の内容物がまだ液体であるため血便や腹部膨満感を自覚することは少なく、貧血症状があらわれてはじめて気がつくこともあるため、進行した状態で発見されることがしばしばあります。その場合、腸の内腔が狭くなりためにおこる腹痛腹鳴嘔吐痛みを伴うしこりが初発症状のこともあります。  
ときには、肺や肝臓の腫瘤(しゅりゅう)として大腸がんの転移が先に発見されることもあります。こうした症状で発見されるがんは進行したものです。

大腸がんの診断方法

大腸がんは、早期であればほぼ100%近く完治しますが、一般的には自覚症状はありません。したがって、無症状の時期に発見することが重要となります。大腸がんのスクリーニング(検診)の代表的なものは、地域、職域で普及してきた大便の免疫学的潜血反応で、食事制限なく簡単に受けられる検査です。この検査が陽性でも、「大腸がんがある」ということではありませんし、逆に陰性でも「大腸がんはない」ともいえません。健康な集団の中から、大腸がんの精密検査が必要な人を拾いあげる負担の少ない最も有効な検査法です。したがって、40歳を過ぎたらこの検診を受けることをお勧めします。血液検査で腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の異常値で見つかることもありますが非常に希で、またその異常値で見つかった場合はそのほとんどは進行した状態です。
大腸がんの確定診断のためには、大腸内視鏡検査が必須ですが、下剤で便を全部排出しないと精度の高い検査はできません。胃の検査などに比べれば多少負担のかかる検査といえます。以下に大腸がんの患者さんに一般に施行する検査項目に関して概説します。

  • 1)注腸造影検査
    食事制限(前日から市販されている低残渣食を食べていただきます)の後、下剤で前処置を十分行います。肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真をとります。この検査でがんの正確な位置や大きさ、腸の狭さの程度などがわかり、手術の方法を決定するためには必須な検査です。
  • 2)大腸内視鏡検査
    肛門から内視鏡(ビデオスコープ)を挿入して、直腸から盲腸までの全大腸を詳細に調べる検査です。大腸内に便が残っていた場合は十分な検査ができませんので、検査当日に腸管洗浄液を1~2リットル飲んでいただき、大腸内をきれいにしてから検査を行います(80歳以上の方には検査前日からの入院をおすすめしています)。通常、検査は20分程度で終わり、多くの場合大きな苦痛もありませんが、開腹手術後などで腸の癒着している方や、腸の長い方は多少の苦痛が伴います。その場合には軽い鎮静・鎮痛剤を使用することがあります。検査は、まず内視鏡を肛門から一番奥の盲腸まで挿入して、主にスコープを抜いてくる際に十分に観察します。その際、検査を受けている方は、直接モニター画面を見ながら医師の説明を聞くことができます。もし、ポリープ等の病変を認めた場合、悪性か良性かどうかを調べるために病変の一部を採取して、どういう性状の病変かを顕微鏡で調べることもあります(これを組織生検と言います)。また、適応があれば内視鏡的に切除(内視鏡的ポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術(EMR))することも可能です。
  • 3)腫瘍マーカー
    血液の検査で身体のどこかに潜んでいるがんを診断する方法です。しかし、大腸がんを早期に発見できる腫瘍マーカーはまだありません。CEAとCA19-9と呼ばれるマーカーが一般的ですが、進行大腸がんであっても約半数が陽性を示すのみです。腫瘍マーカーは手術後の転移・再発の指標として、また治療効果の判定基準として用いられています。しかし、転移・再発した場合でも必ずしも異常値を示すわけではなく、逆に転移・再発していない場合でも異常値を示す時もあり、経時的な測定が必要です。
  • 4)画像診断(CT、MRI、超音波検査、PETなど)
    これらの検査の進歩は目覚ましいものがありますが、消化管のひとつである大腸にできた病気を発見するには適していません。大腸がんに関しては、原発巣での進みぐあいと肝臓や肺、腹膜、骨盤内の転移・再発を調べるために用いられます。また最近、PET検査が注目されています。骨盤CT、骨盤MRIでも判断できないような骨盤内再発の発見や腫瘍マーカーの推移などから転移・再発が疑われるが、CT、MRI、超音波検査などの通常の検査では転移・再発部位が発見できない場合にPET検査で発見される場合があります。しかし、PETは万能の検査ではありません。大腸がんでは保険適応となっておりますが、あくまで診断が確定した上ですので、通常の検診としては医療保険の適応外となります。PET検査の必要性に関しては担当医と十分ご相談下さい。
  • 5)直腸指診
    主に肛門に近い部位(Ra、Rb)にできた直腸がんに必要な検査です。深達度(がんの根の深さのことで、これが進行度を判定する一つの因子です)や自然肛門温存術(人工肛門を作る必要性)、経肛門手術(肛門からアプローチし腫瘍だけを外科的に切除する方法)の適応診断には、画像診断以上の信頼性を発揮することもあります。また、術前の肛門機能(肛門のしまり具合、失禁の有無など)を知るためには必須の検査です。

大腸がんの病期分類

大腸がんと診断がつけば、どの程度のがんか、肝臓、肺などの遠隔臓器に転移があるのかどうかの検査が行われます。がんの拡がりの程度に応じて治療法も異なります。進行度の決定は、がんの大きさではなく、大腸の壁の中にがんがどの程度深く入っているか(深達度)、及びリンパ節転移、遠隔転移の有無によって進行度が規定されています。
進行度を表記する場合、世界的にはTNM分類を多く使用していますが、国内では日本独自の「大腸癌取り扱い規約」に準じた方法で表記します。

ステージ分類
 O 期: がんが粘膜にとどまるもの
 I 期: がんが大腸壁にとどまるもの
 II 期: がんが大腸壁を越えているが、隣接臓器におよんでいないもの
 III 期: リンパ節転移のあるもの
 IV 期: 腹膜播種、肝・肺などへの遠隔転移のあるもの

大腸がんの治療方法

治療法には内視鏡的治療外科療法放射線療法化学療法があります。
早期大腸がんの一部(粘膜下層高度浸潤)、または進行大腸がんの根治治療はあくまでも外科療法、つまりがんを含めた腸切除です。

  • 1)内視鏡的治療
    従来の内視鏡でもポリープの有無や性状は診断可能であり、必要に応じてポリープを切除していました。最近では、ポリープの表面構造を100倍まで拡大して観察できる拡大内視鏡を用いることで、より精密な検査が可能となっています。当院の第一内科では、この拡大内視鏡を用いたより精度の高い診断、つまり腫瘍・非腫瘍(内視鏡切除の適応である腫瘍性ポリープと、切除する必要のないその他のポリープ)の鑑別を行っています。また、同様に、拡大内視鏡を用いることで、内視鏡的治療で根治可能な早期がんと外科手術が必要な病変との判別も行っています。なお、ポリープ切除に際しては、大腸粘膜には知覚神経がないため通常痛みを感じることはありません。
  • (a)内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
    茎のあるポリープを認めた場合、スコープを通してスネアとよばれるループ状の細いワイヤー(針金)を、茎の部分に引っかけて締めて高周波電流で焼き切ります。
  • (b)内視鏡的粘膜切除術(EMR)
    無茎性、つまり平坦なポリープや腫瘍の場合は、ワイヤーがかかりにくいため、病変の下層部に生理食塩水などを注入して周辺の粘膜を浮き上がらせ、広い範囲の粘膜を焼き切ります。通常、外来治療を行いますが、病変が大きい場合には短期間の入院の上内視鏡治療を行います。
  • (c)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
    腫瘍が大きい場合、これまでは外科手術か内視鏡的な分割切除(病変を何回かにわけて切除する方法)が選択されていました。しかし最近では、主に胃において行われているESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:病変を電気メスで徐々にはぎ取る方法)を応用することにより、大きな腫瘍も一括で切除(一つの塊として切除すること)できるようになってきています。但し、従来のEMRに比較すると高度な手技を要するため切除に多少時間がかかりますし、切除面の傷も広くなるため、数日間の入院が必要となります。
    いずれの方法においても、摘出した後、病変を十分に顕微鏡で検索することが重要です。良性の腫瘍や粘膜内にとどまる早期のがん(再発や転移の危険性がない)は内視鏡的に治癒切除することができますが、早期がんの中でもがんがより深く(粘膜下層SM深く)進展していることが判明した場合には、リンパ節転移や再発の危険性が10%前後であるため、追加の外科手術が必要となる場合があります。

 


2)外科療法

  • (1)結腸がんの手術
    大腸がんの治療は外科療法が基本で、早期がんの場合でも手術が必要になる場合があります。結腸がんの場合、切除する結腸の量が多くても、術後の機能障害はほとんどおこりません。リンパ節郭清(かくせい)と呼ばれるリンパ節の切除とともに結腸切除術が行われます。
  • (2)直腸がんの手術
    直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、直腸の周囲には前立腺・膀胱・子宮・卵巣などの泌尿生殖器があります。排便、排尿、性機能など日常生活の上で極めて重要な機能は、骨盤内の自律神経という細い神経繊維によって支配されています。進んでいない直腸がんには、自律神経をすべて完全に温存し、排尿性機能を術前同様に残すことも可能です。しかし、自律神経の近くに進行している直腸がんでは、神経を犠牲にした確実な手術も必要となります。直腸がん手術は、進行度に応じたさまざまな手術法があります。代表的な手術である自律神経温存術、肛門括約筋温存術、局所切除、人工肛門について説明します。
  • ・自律神経温存術
    直腸がんの進行の度合いや、排尿機能と性機能を支配する自律神経繊維を手術中に確認し、必要に応じて選択的に自律神経を温存する手術法です。我が国の大腸外科医が世界に誇れる成果です。がんを徹底的に切除しながら、同時に進行度に応じて神経を残す方法です。しかし全部の神経が残せた場合であっても、特に肛門に近いがんの手術の場合は、手術前と同様な機能、つまり男性では射精、勃起機能を完全に温存できるとは言えません。数%の方は、術後お薬に頼らなくてはいけない場合もあります。排尿に関しては全部の神経が残せた場合は、完全に手術前の状態となります。
  • ・肛門括約筋温存術
    以前は肛門に近い直腸がんの多くに人工肛門がつくられていましたが、最近では直腸がんの8割は人工肛門を避ける手術ができるようになりました。自動吻合器という筒状の機械を使って、がんの切除後に短くなった直腸端と結腸の先端を縫合し、本来の肛門からの排便を可能にする手術法で肛門括約筋温存術と呼ばれます。肛門から4cm以上、歯状線(肛門と直腸との境界)から2cm以上離れていれば、自然肛門を温存することが可能です。この手術と自律神経温存術を併用すれば、術後の機能障害をかなり軽減することが可能となりました。さらに最近では、歯状線にかかるような、より肛門に近い直腸がんであっても早期がんや一部の進行がんで肛門括約筋を部分的に切除して自然肛門を温存する術式が一部の専門施設で行われるようになってきました。
    しかし、高齢者の場合、無理に肛門を残すと術後の頻便などのため逆効果になることもあります。したがって、手術法と病期の進行度を正確に説明し、年齢、社会的活動力、本人や家族の希望などを考慮に入れ、総合的に術式を決定することが極めて重要となります。当院外科も、腹腔鏡手術の拡大視効果(近接して神経や微細な血管を確認できる)による正確な神経温存や肛門括約筋温存術を行い良好な成績です。
  • ・局所切除
     早期がんや大きな腺腫に採用される手術法です。開腹手術ではなく、肛門から病変に到達する方法です。
  • ・人工肛門
    肛門に近い直腸がんや肛門にできたがんでは、人工肛門を造設する直腸切断術という手術を行わなければなりません。また、高齢者は肛門括約筋の力が低下しており、無理して括約筋温存術を採用すれば術後の排便コントロールが難しい場合もあるので、人工肛門による排便管理を勧めています。ビデオ、患者会(オストメイト)や専門の看護師(WOCナース;Wound Ostomy and Continence Nurses)を通し、ストーマ教育を充実させ、人工肛門管理の自立とメンタルケアに務めています。当院外科の大腸専門外来(毎週月曜日)でも、専属の看護師(WOCナース;Wound Ostomy and Continence Nurses)による教育や相談を行っています。また肉体的・精神的不安を、安心して相談できるオストメイト(人工肛門保有者)の会(日本オストミー協会岩手県支部)も充実していますので、お気軽にご相談ください。
  • (3)腹腔鏡手術
    大腸がんに対する腹腔鏡手術は1992年に国内で初めて行われ、腹腔鏡手術を施行する施設は徐々に増えてきています。当院外科では1997年から開始しており、2007年12月までに505名の大腸がんの患者様に行っております。炭酸ガスで腹部を膨らませて、腹腔鏡を腹部の中に入れその画像を見ながら小さな孔から器具を入れて手術を行います。がんを摘出するために1ヶ所だけ4~6cmくらいの傷が必要です。決して縮小手術(リンパ節郭の省略など)ではありません。手術時間は開腹手術より長めと言われていますが、当院では同等です。小さな傷口で切除が可能ですので、術後の疼痛も少なく、術後7~8日前後で退院できるなど負担の少ない手術です。長期的には開腹手術に比べて、腸閉塞の頻度が少なく、整容性(傷の見た目)も明らかに優れています。
    がんが盲腸、上行結腸やS状結腸、上部直腸に位置し、内視鏡的治療が困難な大きなポリープや早期がんが腹腔鏡手術のよい対象と考えられています。当院ではがんがどこの部位であっても、また進行がんでも腹腔鏡手術を行っています。海外でのたくさんの比較試験では進行がんに対しての開腹手術と同等の安全性や治療成績が確認されていますが、国内では現在比較試験が行われています。これまでのデータでは、十分に経験を積んだ大腸がんに対する腹腔鏡手術の専門医が担当すれば、進行がんでも腹腔鏡手術の生存率は開腹手術と同等となるのではないかと考えられています。
    腹腔鏡手術は近年開発された手術手技であり、特殊な技術・トレーニングを必要とし、外科医のだれもが安全に施行できるわけではありません。現在、腹腔鏡手術の最大の問題は、どこの施設でも安全に腹腔鏡の手術が施行できるわけではないこと、すなわち大腸がんの腹腔鏡手術の専門医が限られていることです。そのため、施設により腹腔鏡手術の対象としている患者さんが異なるのが現状で、大腸がんに対する腹腔鏡手術を導入していない施設も現時点ではたくさんあります。腹腔鏡手術を希望する場合には専門医がいる病院を受診し、開腹手術と比較した長所、短所の説明を十分に受けて、腹腔鏡手術か開腹手術かを決定して下さい。
    当院の外科では、大腸がんの腹腔鏡手術の専門医、大腸がん治療専門医が在籍しており、2007年は100例(1997年から計505例)の腹腔鏡下大腸がん手術を行っておりますので安心して手術をお受けください。ただし、「がんの大きさ6cm以上」「がんによる腸閉塞」「骨盤の中の他臓器や神経にがんが近い場合」は小さい傷で行うメリットがないので開腹手術をお勧めしております。
  • 3)化学療法
    大腸がんの化学療法は、進行がんの手術後に再発予防を目的とした補助化学療法と、根治目的の手術が不可能な進行がんまたは再発がんに対する生存期間の延長及びQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上を目的とした化学療法とがあります。大腸がんに対して有効かつ現時点で国内にて承認されている抗がん剤は、フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(国内ではアイソボリン)、イリノテカン(CPT-11)、オキサリプラチン、UFT/LV、UFT、S-1などです。
    最近、分子標的薬剤(ベバシズマブ)も国内で承認され、従来の標準的な抗がん剤と併用することにより良好な成績が報告されています。
  • (1)術後補助化学療法
    手術によりがんを切除できた場合でも、リンパ節転移があった場合に、再発率が高くなることが知られています。このような場合、手術を行った後に化学療法を行うことで、再発を予防するあるいは再発までの期間を延長できることがわかっています。このような治療を、術後補助化学療法といいます。一般には、術後補助化学療法の対象はリンパ節転移があるステージIII期の患者さんで、手術後に5-FU/ロイコボリン注療法(点滴)、UFT/ロイコボリン錠(ユーゼル錠)療法(内服)、カペシタビン(ゼローダ錠)療法(内服)の6ヶ月投与が標準的に行われています。リンパ節転移のないステージI期、ステージII期の大腸がんについて術後補助化学療法の有用性は明らかではないため、基本的には術後補助化学療法は行わず、無治療で経過観察をします。
  • (2)化学療法
    根治的な手術が不可能、または再発を起こした大腸がん(肝臓や肺に転移)で手術ができない場合には化学療法の適応になります。大腸がんの場合、化学療法のみで完治することはまれですが、臓器機能が保たれている人では、化学療法を行わない場合と比較して、化学療法を行ったほうが、生存期間を延長させることがわかっています。抗がん剤というと、副作用が強く、治療を行ったほうが命を縮めてしまうと考えてしまうかもしれませんが、最近は副作用の比較的少ない抗がん剤の開発と、副作用対策の進歩により、入院せずに外来通院で日常生活を送りながら化学療法を受けている患者さんの方が多くなりました。大腸がんの化学療法は外来で行えるものが多く、副作用をコントロールしながら、「がん」あるいは「治療」と上手につき合っていくことが、一番の目標といえるでしょう。
    以下に大腸がん化学療法に用いる代表的な薬と治療法について説明します。
  • ・5-FU(5-フルオロウラシル)+ロイコボリン
    5-FUは数十年前より広く使われており、大腸がんの化学療法には欠かせないお薬です。胃がんや食道がんにも用いられています。大腸がんに対しては、ロイコボリンという薬と併用されることが多いですが、最近はそれに加えて後述するイリノテカンやオキサリプラチンとも併用されるケースが多くなってきています。使い方は、週に1回点滴する方法や、2週間に1回持続点滴を行う方法、週に1回肝動脈へ点滴する方法(肝転移にのみ有効)など、いろいろな治療法に組み込まれて使用されています。
    副作用は比較的軽微ですが、下痢や口内炎などの粘膜障害や、白血球が減ったりすること、手指の皮膚が黒くなること、食欲の低下などに注意する必要があります。脱毛はほとんどありません。
  • ・イリノテカン
    10年ほど前から用いられ、胃がんや肺がんでも広く使用されている薬です。大腸がんに対しては、ほとんどが5-FU/ロイコボリンとの併用で用いられます。併用する場合には5-FUを短時間(15分)で投与する方法(IFL療法)やTS-1(内服薬)と併用する方法(IRIS療法)、5-FUを短時間で投与した上でさらに46時間持続的に投与する方法(FOLFIRI療法)があります。以前はIFL療法も多く用いられていましたが、副作用並びに効果の面でFOLFIRI療法のほうが優れていることがわかったため、現在ではFOLFIRI療法が多く用いられるようになってきていますが、年齢や全身状態、経済的なことを考慮し患者さんとよく相談し決定します。またFOLFIRI療法と後述するFOLFOX療法は46時間持続注入療法を主に外来で行うため、「ポート」という、前胸部の皮膚の下にカテーテルを埋め込む手術が必要となります。局所麻酔で30分程度です。
    副作用としては、食欲の低下、全身倦怠感、下痢、白血球が減ったりすること、脱毛(50%~70%)などがあります。また投与中の発汗や腸管運動の亢進などもよくみられますが、投与前に予防薬を内服することでコントロールできることが多いです。食欲の低下に対しては、ステロイド剤や制吐剤を用いますが、コントロールが難しい場合もあります。そのような場合には、担当医に相談しましょう。
  • ・オキサリプラチン
    オキサリプラチンは我が国で合成されましたが、主にフランスやアメリカなどで臨床開発が行われ、世界的には大腸がんに対する主な抗がん剤のひとつとなりました。我が国の一般臨床で使用できるようになったのは、2005年4月のことです。単独ではあまり効果を発揮しませんが、5-FU/ロイコボリンとの併用(FOLFOX療法)では、FOLFIRI療法とほぼ同等の治療成績を示しており、この2つの療法が現在の大腸がん化学療法の柱となっています。この療法も5-FUを短時間で投与した上でさらに46時間持続的に投与する方法ですので、「ポート」を埋め込む手術が必要です。
    副作用としてはイリノテカンと比較して食欲の低下は軽く、脱毛もあまり認めませんが、投与された患者さんのほぼ全員に感覚性の末梢神経障害をきたすのが特徴です。この末梢神経障害は、寒冷刺激により誘発され、冷たいものを触ったり、冷たい飲み物を飲んだりすることで、手先にびりっとする感覚や、のどの違和感が出現します。治療開始当初は2~3日で消失しますが、治療を継続するにしたがって、回復が遅れ、治療後4~5ヶ月で、10%の患者さんに機能障害(箸が持ちにくくなるなど)をきたすといわれています。このような場合には、オキサリプラチンの投与量を減らしたり、あるいは治療をお休みするなどして副作用の回復を待ちます。これら以外にも白血球が減ったり、血小板が減ったりすることが比較的よくみられます。
  • ・ベバシズマブ
    ベバシズマブ(商品名アバスチン)は、がんに対する新しい分子標的薬でアメリカでは臨床試験でアバスチンの抗がん剤増強作用が確認されています。日本では2007年10月に承認され、現在一般臨床で使用されています。
    アバスチンの標的となる分子は、VEGF(血管内皮増殖因子)というたんぱく質です。VEGFは血管の細胞を増殖させる働きを持っており、VEGFの分泌が起こる部位に血管が伸びたり、新しい血管ができたりします。この現象を血管新生といいます。アバスチンは、この血管新生を抑制することでがんの増殖を抑えます。つまり、がんを「兵糧攻め」で攻撃するわけです。
    アバスチンは、がん細胞の増殖をおさえる働きがありますが、アバスチンだけではがんを小さくすることはできません。がんを小さくさせるのには、これまで使われてきた抗がん剤(FOLFOXあるいはFOLFIRI)が必要です。そのためアバスチンにこれまでの抗がん剤を組み合わせることでがんを攻撃すると、これまでの抗がん剤の作用を増強することが,臨床試験で示されました。
    副作用としては、高血圧、たんぱく尿、鼻血、白血球の減少があります。特に強い副作用としてショックや消化管が破れてしまい腹膜炎を起こしたり、血栓塞栓症を引き起こすこともあり、患者さんの状態を考慮し慎重な投与が必要です。
  • セツキシマブ
    ベバシズマブ同様に新しい分子標的薬で、国内で2008年7月18日に認可された新しい治療薬で、それが抗EGFR抗体薬であるセツキシマブ(商品名アービタックス)です。EGFR (Epidermal Growth Factor Receptor; 上皮成長因子受容体)とは細胞増殖にかかわる上皮成長因子の受容体で、正常組織においては細胞の分化、発達、増殖、維持の調節に重要な役割を演じていますが、がん細胞においてもEGFRは重要な役割を持ち、発がん、およびがんの増殖、浸潤、転移などに関与します。 1983年セツキシマブは培養がん細胞やマウスモデルに対し抗腫瘍効果を示すことが確認され、さらに1990年には臨床試験が開始されました。2001年~2002年に行われた無作為化比較臨床試験においてがんに対する効果が証明され、2003年12月に、転移性大腸がんに対する治療薬としてスイスで初めて認可を受けました。日本では2008年7月18日に、「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんの治療薬」として厚生労働省の製造販売承認を受けています。通常はイリノテカンと併用して使用されます。
    セツキシマブに特徴的な副作用のざ瘡様皮疹は、顔や胸部、背部などににきび様の皮疹が出るもので、セツキシマブ治療の際にはこの皮疹のコントロールが非常に重要になります。
    またこの治療は高額でもあるため、投与して効果が得られる症例を選択していくことが重要です。そのためにもEGF陽性(あるいはKRAS野生型)の大腸がんであることが適応です。

以上、これらの薬は必ず使わなくてはいけないというものではなく、状況によってはむしろ使用しないほうが患者さんにとって有益であるケースもあります。例えば、全身状態の悪い患者さんにイリノテカンやオキサリプラチンなどの治療を行った場合、白血球が予想よりも多く減少したりする可能性もありますし、腸の通りが悪い患者さんにはイリノテカンは使用できません。そのような場合には比較的副作用の少ない5-FUを中心に治療を行ったり、がんの苦痛を軽減するための治療(緩和ケア)のみを行うケースもあります。担当医とよく相談して最善の治療方法を選択して下さい。

  • 4)放射線療法
    放射線療法には、1)手術が可能な場合での骨盤内からの再発の抑制、手術前の腫瘍サイズの縮小や肛門温存をはかることなどを目的とした手術に対する補助的な放射線療法と 2)切除が困難な場合での骨盤内の腫瘍による痛みや出血などの症状の緩和や延命を目的とする緩和的な放射線療法があります。
  • (1)補助放射線療法
    切除が可能な直腸がんを対象とします。通常、高エネルギーX線を用いて、5~6週間かけて放射線を身体の外から照射します(外部照射)。化学療法の適応がある場合には、化学療法と併用して行われることが標準的です。我が国における専門施設では十分なリンパ節郭清により、骨盤内からの再発が少ないなど手術成績が欧米に比べ良好なことなどから、現在、我が国では補助放射線療法は欧米に比べ積極的に行われていません。
  • (2)緩和的放射線療法
    骨盤内の腫瘍による痛みや出血などの症状の緩和に放射線療法は効果的です。全身状態や症状の程度によって、2~4週間などの短期間で治療することもあります。また、骨転移による痛み、脳転移による神経症状などを改善する目的でも放射線療法は一般的に行われます。
  • (3)放射線療法の副作用
    放射線療法の副作用は、主には放射線が照射されている部位におこります。そのため治療している部位により副作用は異なります。また副作用には治療期間中のものと、治療が終了してから数ヶ月~数年後におこりうる副作用があります。
    治療期間中におこる副作用として、全身倦怠感、嘔気、嘔吐、食欲低下、下痢、肛門痛、頻尿、排尿時痛、皮膚炎、会陰部皮膚炎(粘膜炎)、白血球減少などの症状が出る可能性があります。以上の副作用の程度には個人差があり、ほとんど副作用の出ない人も強めに副作用が出る人もいます。症状が強い場合は症状を和らげる治療をしますが、通常、治療後2~4週で改善します。治療後数ヶ月してからおこりうる副作用として、出血や炎症など腸管や膀胱などに影響が出ることがあります。

大腸の手術のあとは

  • 1)定期検査
    大腸がんは少し進行していても、根治手術(がんを残さず切除する)ができれば完治するチャンスが他の消化器がんに比較して高いわけですが、手術後は再発の早期発見のために定期的な検査を行うことが何よりも重要です。大腸がんでは肝臓や肺・骨盤内に転移・再発する場合が多いのですが、その場合でも切除可能な場合には早期に切除したり(当院では肝臓や肺再発が小さい早期の場合、腹腔鏡手術を行っています)、切除不可能な場合にも早期に化学療法や放射線療法を開始することが大切です。したがって、手術時の病期により異なりますが、手術後5年間は3~6ヶ月に一度通院し、肺・肝臓のCT、腫瘍マーカーなどの検査を行います。また必要な場合(腫瘍マーカーだけが高く、CTで異常がない)にはPET-CTをお勧めしたりします。厳重に追跡検査を行えば、再発の8割を3年以内に発見することができます。成長の遅い大腸がんもあるので5年間の追跡は必要です。5年間の追跡が終了したら、開業医の先生や市町村で行っている大腸がん検診を積極的に受けていただいています。残っている大腸にまた新しいがんができる可能性があるからです。
    病期(ステージ)別の再発率
     ステージ O 期:再発はありません
     ステージ I 期:粘膜下層までのがんの場合は約1%、筋層へ達した場合は約6%
     ステージ II 期:約13%
     ステージ III 期:約30%
  • 2)日常生活
    大腸・直腸の手術により、下記の症状が生じます。
    ・大腸からの水分の吸収が減少することにより、軟便や下痢になりやすくなります。
    ・大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう:消化物を排泄(はいせつ)するように送り出す運動)が障害されることで、便秘になることもあります。
    ・直腸の手術の場合は、便の貯留機能が減少あるいは失われるため、頻便(ひんべん)傾向となります。
    ・小腸や大腸の癒着(ゆちゃく)により、内容物の通過不良が生じ、腹部の膨満を感じたり、あるいはひどくなると腸閉塞
     (ちょうへいそく)となる場合があります。
    ・人工肛門の場合は、便のにおい、色、かたさなどに過敏になりやすいなどの症状が生じる可能性があります。
    ・「おならが多くなった」と言われる方が多いですが、異常ではありません。おならは健康の指標です。おならが出なくなったら、腸閉塞を考えます。

原則的には、食事の種類に制限はありません。つまり、何を食べてもかまいませんが、食物繊維が多く含まれているものや消化しにくいものは、腸閉塞の原因となることがありますので、術後3ヵ月は控えたほうがよいでしょう。
最も基本的なことは、おいしく、ゆっくり、楽しく、食べることです。バランスの良い食事を心がけましょう。

大腸がんの治療成績

岩手医科大学附属病院外科における治療成績については>こちらをご参照ください。

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